炬燵でコーヒー
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「帝国には炬燵は無いのか?」
僕は自称皇帝に話しかける。やつは物珍しそうに炬燵布団をいじっている。
「うむ、コタツ以前に、こんな感じで地べたに座る事自体始めてだ。けど、悪かないな」
自称皇帝はまたニカッと笑う。まるで虎や獅子が牙を剥いているみたいだ。もっとも僕は猫がそうするのしか見た事がないが。猫と言えばモフちゃん。最近は年明けで忙しいらしくて悲しい事にあまり見かけない。
僕達は今アンの部屋の炬燵に入っている。僕は入り口近くに座らされ、正面奥には自称皇帝、右手には半纏に頭に可愛らしい角当てをしたドラゴン娘アンがブスッとしている。何故かジブルが仕切っていて、席移動させられたのがアンは気に食わないらしい。アンの横には魔法使いのルル、その正面はマイとジブルが座るみたいだ。
いつもは、座って何もしないジブルが甲斐甲斐しくマイの手伝いをしている。大丈夫なのか? なんか今日のジブルはおかしい。真面目すぎる。もしかして酒でも飲んでるんじゃないか?
ジブルが部屋にトレイ片手に入ってくる。そして最高の笑顔で自称皇帝、僕、アンとルル、そして空席に2つ、コーヒーカップを置いていく。コーヒーカップって何故か6つで1セットの事が多いけど、始めて役立った気がする。けど、やっぱりおかしい。もしかしてジブル、お金持ちっぽいから玉の輿狙ってるのか?
ジブルが炬燵に入り、お茶菓子を持ってきてマイも座る。炬燵にコーヒーに鎧を纏った自称皇帝。なんてカオスな絵ずらなんだ。
「コーヒーか。ほう、しかも珍しいな。ティーカップじゃなくてコーヒー専用のカップか」
自称皇帝が湯気の立つコーヒーカップを手にする。
「ん、何が違うんだ?」
「解んないのか? ザップ」
自称皇帝の目がキラリと光り口の端を歪める。うぜーな。
「教えてやるよ。ティーカップは香りを楽しむために薄手で口が広がってる事が多い。コーヒーカップは温度を保つために厚手で背が高くなりがちだ」
僕はカップをみる。うん、厚手だ。
「それと、何よりもの違いは、ティーカップよりコーヒーカップの方が小さいんだよ」
更にドヤる。まじうぜー。蘊蓄垂れる奴って基本的に自分の事しか考えて無い奴が多い。
「ほう、いいコーヒーだな」
自称皇帝はカップを手にコーヒーの匂いを嗅ぐと、テーブルに置いてあった砂糖とミルクをガバガバ入れる。そしてスプーンでそれを混ぜるとスプーンをテーブルに置きソーサーを手に取る。そして、ソーサーの上にコーヒーをこぼすと、そのコーヒーを飲み始めた。
「これが、帝国に昔から伝わる紅茶やコーヒーの飲み方だ。程よく冷めて飲みやすい。お前達も真似していいぞ」
テーブルにコーヒーをこぼしながら自称皇帝は美味そうにコーヒーを飲む。コーヒーのソーサーって何のためにあるのか解らなかったが、こういう使い方もあるのか。けど、誰が真似するか。なんかきたねーな。蘊蓄語りまくっていただけに、なんか残念な光景だ。当然、誰も真似せずにカップからコーヒーを飲む。
「うう、グボォ……」
急に、自称皇帝が、喉を搔きむしりながら後ろに倒れる。なんか口から泡を吹いている。え、何が起こったんだ? エリクサーかけた方がいいのか?
「皇帝、討ち取ったり!」
ジブルが立ち上がり、拳を突き上げる。え、コイツもしかして、自称皇帝に毒を盛りやがったのか?