第六十八話 荷物持ち城に入る
「それでは、私についてきて下さい」
城門を入ってすぐの所で僕たちは馬車から降ろされ、そこでは神官のババが僕らを出迎えてくれた。彼女は修道服のようなのを着ている。本物の神官だったんだな。
ババについて行くと、また大きな門がありその横の通用口を通る。扉を挟んで完全武装の衛兵が立っている。僕らが通っても微動だにしない。外から見たら解らなかったが、城壁は二重になっていた。
大きな中庭の中の石畳の道を行く。道を挟んで巨大な精巧な石像が等間隔で並んでいる。かつての偉大な王や、国に貢献した勇者の像みたいだ。各々の台座に大きな碑文がある。拾い読みしてさっきの結論に達した。
「いやー、大きい石像ですね」
アンが戯言をほざいてる。つっこんで欲しいのか?ドラゴンに戻ったらこいつの方が遙かにでかいのに。
「アンちゃん、本気で言ってるの?」
あ、マイがつっこんだ。マイは基本真面目だからな。
「いえ、冗談ですよ、この大きさなら一噛みですね、一噛み」
子供じゃあるまいし、なんでも口にいれないで欲しいものである。
「ドラゴンって岩を食べるの?」
「食べはしないですよ、歯を磨くのに使うのですよ。こう見えてもわたくしレディーですので、身だしなみには気を付けてるのですよ」
ああ、もう我慢出来ない。つっこみどころ満載すぎて。
「アン、まず人間のレディーは歯磨きに岩や石を使わないからな、それに身だしなみに気を付けるのなら、今後は常に服を着ろ」
「嫌だなー、ご主人様、冗談、冗談ですよ」
アンの目を見るが泳いでいる。こいつ人間も石で歯を磨くと思ってたな、今後は食事のあと口に固いものをいれないか監視が必要だな。フィンガーボウル飲むし。
「アン、しばらく所作振る舞いはマイの真似をしろ。マイ、しっかり行儀を教えてやってくれ」
「わかったわ、ザップ、任せて」
マイが親指をあげる。
「えー、マイ姉様の真似するんですか?私もご主人様の寝てる姿を凝視したり、一緒に寝てたぼろ布の臭いかいだり、使った食器を舐めたりしないといけないのですか?」
「アンちゃん、変な事言わないで!そこまではしてないわ!」
マイが真っ赤になって否定する。むっ、そこまでは?
前を歩いているババの肩が小刻みに揺れてる。もしかして、笑うのを我慢してるのか?
「詳しく聞きたい所だが話はここまでにしとこう。ババさんも笑ってるぞ」
程なくして、また衛兵つきの大きな扉をくぐり城内に入った。
装飾華美な通路を通り、広間に案内された。どうも待合室みたいだ。幾つものテーブルがあり、色んな格好の人達が座っている。その中に場違いなことに武装した一団がいる。どうして武装して城に入れるんだろう。興味が湧いて少し近づいてみる。
その一団を見ると、心臓を鷲掴みにされたような衝撃がはしった。
なんで、あいつらがここに?
しかもなぜこんな所で?
武装した一団は、僕を追放した大陸有数の冒険者パーティー『ゴールデンウインド』の四人だった。