侵攻
「帝国軍が攻めて来るって!」
マイがリビングに駆け込んで来た。マイが慌てるのは珍しい。けど、帝国が攻めてくる? そりゃ、一大事だ。
僕は今、暖炉の前でコーヒーなどいただきながら、読書を楽しんでいる。帝国が攻めて来た? 言葉を吟味して口を開く。
「おいおい、それは本当なのか? 今は冬だぞ、なんでわざわざ攻めて来るんだ?」
冬の戦闘行為は、お金がかかる。防寒具も必要だし、燃料も必要だ。敵だけではなく、冬とも戦っているようなものだ。
「そりゃ、そうだけど、本当なのよ。国境付近に大軍で押し寄せてるらしいわ」
マイが言うからには、信憑性が高い情報なのだろう。
「まじか? 自分の目で確かめてみたい所だけど、まずは、どうするか話し合おう。ジブルは呼んで、アンの部屋に行くか」
「解ったわ」
マイはスマホを出すとジブルに連絡して呼び出した。働き者のジブルは今日も仕事だ。そして僕らはアンの部屋に向かう。アンの部屋の炬燵には、部屋の主のアンと少女冒険者4人の内の1人、魔法使いのルルがいる。僕とマイも炬燵に入りしばらく雑談してると、導師ジブルが部屋に入って来た。そして炬燵に足を入れる。そして、話し合いを始める事にする。
「おい、ジブル、この国に帝国が攻めてきてるって話しだが、どうなんだ?」
「うん、帝国は王国の国境付近に、大規模な軍を配置してるそうよ。アウフの魔道具で確認したから間違いないわ。それに、先日東方諸国連合と帝国は不可侵条約を結んだわ。もっとも条約を結んだって言うよりも脅しに屈したって感じだけど」
まず、帝国についてだけど、僕はしばらく住んでいたからよく知っている。地理的には北には峨々たる山脈があり、西は海、そして、南は王国、東は東方諸国と聖教国に接している。帝国は帝国主義、力で諸国を併呑してきた国だが、今は聖教国、東方諸国連合、王国との三面戦争で敗北を決し、今までは大人しかった。帝国は強大ではあるが、全てを敵に回して戦える程は強くは無い。ジブルの話では東方諸国連合は帝国とは講和を結んだという事だが、聖教国はどうなってるんだろう。
「あと、聖教国は沈黙を貫いてるわ」
ジブルが話を続ける。まるで、僕の思考を読んだかのように。こういう所をみると、やっぱり国のお偉いさんなんだなと実感する。
「どうも、なんでかは知らないけど、我関せずらしいわ」
僕たちはジブルの話に耳を傾けながらミカンの皮を剥いてたべる。テーブルの上には山のようにミカンが籠に積んである。
「えー、なんでなの? もし、帝国が王国を滅ぼしたら、更に強力になって、諸国連合も聖教国も呑み込まれるんじゃないの」
マイの言う通りだ。全員であたってようやく五分くらいなのに、協力しなければ個別に滅ぼされて行く事だろう。合従連衡、帝国に敵対するものが取ったのは、帝国を敵として横に繋がる合従の策だったはずなのに。
「まあ、そうだけど、諸国連合は、いえ、魔道都市アウフは今は戦える力が無いから、何にでも従うしかないのが現状よ」
幼女導師は力無く微笑む。苦労してるんだろうな。魔道都市アウフは多大な借金を抱えているはずだから。前の黒竜王の件で。ジブルの考えは別として、魔道都市は何処に対しても臣従するしか無いのだろう。
「で、俺たちはどうする?」
僕はみんなを見渡した。