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 冬の海(後編)


 足下が柔らかい砂から、ゴツゴツした岩場に変わる。結構深くまで潜っているので、徐々に辺りは暗くなり始める。収納からジブルに貰った光の魔法を出す。それは僕の頭上にふよふよ浮きながら、優しい光で辺りを照らす。光の玉のような形をしていて、便利な事に僕につかず離れずついてきてくれるそうだ。


 なぜ、僕がわざわざ寒い中海に潜っているかと言うと、カニ鍋を食べるためだ。毎年冬になると、王都には高級食材としてカニが出回るそうなのだが、ここ数年はカニ自体があまり獲れず、特に今年は少なく、王都の何処にも売って無かった。無いと思うと余計食べたくなるもので、夏に臨海都市シートルでカニを狩りまくったのを思い出して、この砂浜に来た次第だ。最低でも1杯はゲットして、余ったやつは王都で高値で売りさばく予定だ。

 もう少しで狩り場に着くが、果たしてカニはいるのだろうか? 前にカニを狩ってた辺りに着き、岩場を見渡すが、いるのはカラフルな色の魚ばかり。お目当てのカニは見あたらない。いや、よく目を凝らすと不自然な形の岩がある。ぴったりと地面に貼り付いているが、明らかにカニの形の岩がある。手足を隠して擬態しているのだろう。これはよく見ないと解らない。僕は収納から『勇者の剣』を出す。この剣は斬りたいものだけを斬るという優れものだ。カニの甲殻を傷つけず、上手い事しめる事が出来るはずだ。


『まさか俺様が調理道具として使われるとは……』


 僕の心に勇者の剣のつぶやきが聞こえる。そういえば、この剣は基本調理に使っているような気がする。フォローしてやろうにも海中で話せないしな。

 僕は収納の派生スキルの金色に光る小皿くらいのプレートであるポータルをゆっくり展開する。これで収納に細かく水の出し入れが出来るので、自由に動ける。僕はカニとの距離を瞬時に詰める。


 ブスッ!


 簡単に剣がカニの目と目の間の急所を貫く。呆気ないな。即座にカニ君を収納にしまう。もしかして、寒いからカニ君動きが鈍いんじゃ? 果たしてその通りで、次のカニには普通に近づいたが全く動かなかった。なんか張り合いは無いが、僕は順調にカニをゲットしていった。


 ウボボボボボッ!


 急に首輪が引かれる。いかん、これは苦しい。口からなんか変なものも出てるような。おかしいな、まだ水中呼吸の魔法はきれないはずなのに。まずは、収納に武器をしまい、首輪に手をかけるが、寒さでかじかんでいて、思うように力が出ない。なんで、安全綱を首輪なんかに繋いだんだろう。確かに両手が空くのはいいが、よく考えたら、引っ張られたら首が絞まるのは自明の理だ。水の抵抗で余計首が絞まる。首輪に手をかけて気道を確保する。これでなんとか苦しくない。一瞬、首輪を破壊しようかと思ったが、十分カニは狩ったし、このまま引っ張ってもらった方が楽だと思いとどまる。けど、ジブル、以外に力強いな。海の中を引っ張られていく。コツを掴んで不具合は無い。おっと、海底が浅くなってくる。このままだと、引きずられて痛い目にあう。僕は上手に海底に足を着き立ち上がる。

 え、人が沢山いる!


「出て来たぞ捕まえろ!」


 曲刀を腰に差した革鎧の男達が僕に群がってくる。あれは、この国の警備兵。その後ろには人だかりが……


「まっ、待てっ! 誤解だ!」


「誤解も、何も素っ裸で何を言ってやがる」


 あ、そうだった……


「ゴメンね、ザップ、見てた人がいたらしくて」


 ジブルがウィンクしながら、片手で僕を拝む。可愛くねーよ。


 斯くして、僕は留置場に連れていかれた。観光地で裸で紐のついた首輪をした変態が海に潜っていたという事で。そのあと2日間ぶち込まれて、散々説教されてしかも罰金まで取られた。その間、マイ達は美味しくカニ鍋をいただいたそうだ。


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