冬の海 (前編)
ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!
ザザーン、ザザーン。
僕は砂浜に体育座りで寄せては返す波を見つめている。雲1つ無い青い空に水平線。耳に聞こえてくるのは、ただ波の音だけ。冬の海ってなんだかとっても澄んでいて、なんとなく寂しい気持ちになる。
ところで、なんで体育座りって言うのだろう。僕が読んだ小説とかではそう記されているから、今まで疑問に思った事は無かった。けど、この座り方って一般的には奴隷や囚人の座り方だよな。けど、奴隷座りや囚人座りでは語感が良くないから体育座りが無難だろう。
そんな事より、膝を抱えるとなんか特に自分がちっぽけに思える。特に目の前の誰も居ない見渡す限りの海を見ると、自分の小ささを実感する。
ああ、なんて僕はちっぽけな存在なのだろうか……
クイ、クイッ。
僕の首輪から伸びた紐が引かれる。せっかくのしつとりとした気分が台無しだ。んー、なんか頑丈な輪っかにトゲトゲがついてて、明らかにこれってペット用の首輪だよな。しかもなんか獣臭い気がする。
「ザップ、諦めなさいよ、あんたが言い出したんでしょ」
僕よりも更にちっぽけな生き物が紐をクイクイする。振り返るとなんか胸を張って偉そうにしている。なんか腹立つな。こいつは見た目幼女、中身は残念アラサーの導師ジブル。いろんな補助魔法を得意とし、雑用にはたまに役立つ。
今日は、今から海に潜るために水中呼吸の魔法をかけてもらうのと、終わった後に海から引きあげてもらうのを手伝って貰う予定だ。悲しいかな、僕は泳げないのだ。メインウェポンが金槌なだけにカナヅチだ……
「じゃ、ジブル、頼んだぞ」
「呼吸の魔法が切れる少し前に、思いっきり紐を引き上げたらいいのね」
「ああ、頼む」
僕は海を見つめる。やっぱ止めようかな。絶対寒いに決まっている。けど、みんなの喜ぶ顔を思い浮かべると、僕には勇気が湧いてきた。
「よっしゃあ! いくぜっ!」
僕は収納に服を入れて立ち上がる。
「キャッ!」
ジブル、何ガラにもなく恥じらってやがる。いつもは僕の入浴を事あらば覗こうとする癖に。
バチン、バチン、バチン、バーチーン!
ドンッ、ドンッ!
平手で体のあちこちを叩いて気合をいれる。そして、心臓を叩いて冷たさに備える。くそ寒いけど、気合で乗り切ってやるぜ。
「ウシャシャシャシャーッ!」
雄叫びを上げながら、そのまま海に突っ込む。よし、いける。そのまま僕は海に突入した。
おっ、以外に暖かい。けど、なんか変な所に水の抵抗が? あ、パンツはいてねぇ。ま、いっか海の中で誰も見てる訳じゃないし。僕は呼吸の魔法が作動しているのを確認して収納から出した武器を重しにして、沖に向かって柔らかい海の底を歩き始めた。