村祭り(後編)
「ザップー、頑張ってーっ!」
ん、なんか聞いた事ある声が。
げっ、マイとアンとジブルもいつの間にか来ている。僕の大根っぷり見られていたのか!
「お姉ちゃん、あれは黄金騎士。猿人間なんてだっさいものじゃないよ」
マイが子供にしかられている。そうか、猿人間より黄金騎士の方が今は人気があるのか……なんか少し悲しい。けど、ザップ=猿人間というのは広まってるみたいで少し嬉しい。ん、嬉しいのか?
気を取り直してミノタウロスと対峙する。先にミノタウロスが攻撃してくる。単調な斧の一振りをわざと食らって吹っ飛ばされる。これは演出だ。まずはミノタウロスの強さを観客にアピールしないと。殴り殴られしばらく泥仕合をする。そしてミノタウロスの斧大振りの一撃を両手で止める。押し込むミノタウロス、ジリジリと押される僕。
「みんなーっ、黄金騎士が危ないわ! 黄金騎士が負けないようにみんなで応援するわよ。黄金騎士がんばれーっ!」
「「黄金騎士がんばれーっ!」」
子供達の声援に応え、僕は逆にジリジリとミノタウロスを押し返す。そして、斧を弾き飛ばし、オーバーアクションの右ストレートを放ちミノタウロスをぶっ飛ばす。観客のボルテージもマックスだ。フラフラと立ち上がったミノタウロスの角を掴みその巨体を片手で逆さに持ち上げる。
「オオオオーッ!」
観客席からどよめきが起こる。いかん、少し調子に乗りすぎたか?
そのままブルンブルン振り回し、ミノタウロスを地面に叩きつける。子供達の目の前なので、当然見た目だけで加減している。そして立ち上がったミノタウロスにタックルしてテントに転がり込む。その最中にミノタウロスはヘッドバッドで退治した。死骸をテントの中で収納にしまおうと思ったが、その体は消え失せて、残ったのはミノタウロスの1本の角だけだった。
テントの中の本物の黄金騎士の中の人に鎧を着せて、これで晴れて僕はお役御免だ。黄金騎士はステージに戻り、劇はエピローグに進んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「モンキーマン・ザップ、何故ここに?」
山道を駆け抜けるフードの男の前に僕たちは立つ。ジブル言うには、多分高レベルの召喚士だ。ステージに現れたミノタウロスは召喚術によるもので、その痕跡をジブルに辿って貰って犯人に追い着いた。
「何故、俺を狙った?」
「さあな、自分の胸に手を当てて聞いてみな」
「そうか」
正直、心当たりが多すぎて解らない。コイツを生け捕りにするしかないか。
「おおっと、安々と俺を捕まえられると思うなよ、魔獣よ出でよ!」
男が何かを地面に叩きつけると、そこを中心に光輝く魔方陣が現れる。そこから子馬くらいの大きさの犬ッぽい生き物が這いだしてくる。その頭は3つあり、咆哮を上げる。ケルベロス、ザコだな。
「ミノタウロスと同レベルの魔獣だ。まあ、せいぜい頑張りな。ウガッ……」
僕たちがケルベロスに近づく前に、男はケルベロスに吹っ飛ばされる。
「マイ、あいつを頼む」
「わかったわ!」
僕は収納からハンマーを出してケルベロスを殴り付ける。僕の後ろから駆け出したマイが、男に走り寄る。ケルベロスは一撃で地に伏し消え去る。
「ザップ、駄目みたい」
マイは収納から出したエリクサーを男にかけていたが、運悪く一撃死だったみたいだ。
「どうも、マジックアイテムだったみたいね。任意の魔獣を呼び寄せる」
ジブルは魔方陣の跡をいじっている。
「ご主人様を狙ってるみたいでしたけど、実力不足でしたね」
「そうだな」
僕はアンに相づちを打つ。何者だったのだろうか? けど、今は解らない。
「マイ、ジブル、コイツの身元照会を王都のギルドで頼む」
気持ち悪いが男の死体を収納に入れる。そして僕らは村に戻った。僕たちは村祭りを楽しみ、僕は2回目の公演にも参加し、次はつつがなく進んだ。集まった人々にも大好評だった。多分、喜んで貰えるのが嬉しくて、旅芸人のみんなは続けてるんだろうな。
マイ達とは一端村で別れ、僕は旅一座の護衛を継続した。座長は僕の事を気に入ったみたいで、しきりにスカウトしてきたが、丁寧に断った。まぁ、少し心は揺れ動いたけど。冒険者引退したら、厄介になるのもいいかもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。