村祭り(中中編)
「「黄金騎士!!」」
子供達の声援を受けてテントを出ると、ステージの前は人だかり。失礼だが、正直しょぼい黄金騎士を見にこんなに沢山の人が集まるとは思わなかった。もしかしたら僕が知らないだけで黄金騎士って流行ってるのか?
MCの吟遊詩人の歌とセリフに合わせながら黄金騎士と僕を含め3人の騎士はお姫様を助けに行く事になった。やっぱり団員達は凄い、動きが大きく格好いい。それに比べて僕は明らかにギクシャクしてるのでは?
最初の敵はゴブリン。ゴブリンの中身は座長で緑の全身タイツにやたらリアルなゴブリンのかぶり物をしている。かがんでちっこく見せようとはしているが、やたらデカいゴブリンだ。しかもゴブリンは何故か強く、僕ともう1人の騎士を倒す。
フラフラやられたふりをして、テントに入って急いで着替えだ。もう1人の騎士の中身は女性でお姫様役でもある。彼女の脱ぎっぷりは潔く、下着になったかと思ったら、いそいそドレスを着込む。
いかん、ついつい見入ってしまった。僕も急いで鎧を脱ぎ、腰巻きにミノタウロスのかぶり物を装備する。ミノタウロスの角が片方無い。練習の時に壊してしまったのかもしれないが、探しても角は無い。ま、いいか。
んー、なんだか僕っていつも半裸ないし全裸な気がする。そういう星の下に生まれているのだろうか。けど、正直、冬に半裸は辛い。ミノタウロス役の団員がお腹を壊す訳が解った。これは腹が冷える。
テントの外から大歓声が聞こえる。多分、騎士が活躍しているのだろう。しばらくして、ゴブリン役の座長が戻って来て着替える。当然見ない。おっさんの生着替えなんて、誰得だよ。座長の次の役は、姫を助けた騎士を讃える王様役だ。
僕ことミノタウロスは、この次、吟遊詩人のナレーションに合わせて、お姫様片手に登場して、あと1人残ったザコ騎士を倒し、そのあと黄金騎士を追い詰めて、華麗に逆転負けして終了だ。
「ミノタウロス! ミノタウロスが現れましたーっ!」
テントの外から吟遊詩人の声がする。ん、ミノタウロスが現れたも何も、僕まだテントから出てないのに?
慌てて姫様片手にステージに出ると、既に斧をもった立派なミノタウロスがいらっしゃる。
え、何で? 理解が追い着かないうちに、ザコ騎士がミノタウロスに殴り飛ばされる。さすが旅芸人、今のは当たってない。やられたふりだ。
「グゥオオオオオオーン!」
ミノタウロスは雄叫びを上げると黄金騎士に飛びかかる。いかん、何故かは解らんが、あれは本物のミノタウロスだ。僕とは根本的にクオリティが違いすぎる。どうする? 観客は劇だと思ってるみたいだ。せっかくの楽しみを奪う訳にはいかない。僕は咄嗟に黄金騎士をテントに突き飛ばす。そして、僕もテントに転がり込む。
「な、何してんだよ」
黄金騎士の中身が焦った声をだす。
「護衛の仕事をする。あとは任せろ!」
一瞬で黄金騎士の鎧兜と僕のかぶり物を収納に入れて、鎧兜を収納から上手く出して装備する。そして急いでテントから出る。ミノタウロスはお姫様の方を向いている。間一髪間に合った。
「黄金騎士、黄金騎士が一匹のミノタウロスを倒して現れましたーっ!」
吟遊詩人、ナイスアドリブ。
「あれーっ、黄金騎士、足短くなってるよ?」
子供の声が飛ぶ。余計な御世話だっつーの。