村祭り(中編)
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そして、夜が明けた。いや、まだ明けてない。
田舎の朝は早い。まだ空は暗く、朱の明星がキラキラしてる中、お祭りの準備は進んでいく。
頼まれてはいないのだが、手持ち無沙汰なので、ついつい色々手伝ってしまう。当然、魔法の収納は使わない。ここでは僕は格闘が得意の力自慢の冒険者という設定だからだ。それでも、僕の剛力は重宝された。村の中央の広場には沢山の露店が並び、その端に旅一座のステージが作られる。一段高いステージの横に2つのテントが立てられて、そこから登場人物が行き来する形だ。
いつの間にか沢山の人が集まっている。聞いた所、近隣の村々と合同の祭りだそうだ。人が集まる所は余り得意ではないが、たたき売りの掛け声、はしゃぐ子供たち、明るい喧騒に包まれているのは存外悪くはない。色々手伝ったり、露店を見たりしていたら、いつの間にか公演時間が近づいていた。
何気なく旅一座のテントに入ったら、空気がピリピリしている。話を聞くと、団員の1人が腹を下して動けないそうだ。トイレから出て入るの繰り返しで、薬も効かないみたいだ。残念だが僕のエリクサーでは下痢は治せない。
「なあ、兄さん、ちょっと顔借りていいか」
僕は座長に呼ばれて、人が居ないテントに連れていかれる。おもむろに座長は頭を下げる。
「すまんが、兄さん、追加報酬を出すから手伝ってくれんか?」
そして、僕は劇に出る事になった。
「兄さん、もっと間合いを取ってくれ危なすぎる」
僕は座長とアクションの練習をしている。言われた通りに間合いを広げる。アクションでは攻撃を当てたふりをして、それを食らった方がやられる演技をする事になる。だから間合いが近すぎたら本当に攻撃が当たってしまう訳だ。けど、どうしても意識しないと実戦の間合いをとってしまう。まぁ、職業病だな。物騒な職業病だけど。
けど、しばらく座長と練習して、コツは掴めて来た。ミノタウロスのかぶり物をしたまま、エアなストレートを食らって激しく吹っ飛んだり、エアなキックを食らって宙返りつきで吹っ飛んだり、狭いテントの中で、見事なやられっぷりをマスターした。これで、立派なミノタウロスとして騎士に成敗される事が出来るだろう。けど、正直、角が邪魔だった。角が引っかかると首にくる。角が生えてる生き物の大変さをひしひしと感じた。
少し時間は押したが、なんとか公演開始だ。僕はまずは黄金騎士の部下役でちゃっちい鎧に身を包み出番を待つ。
「それでは、今から、黄金騎士の冒険が始まります。みんなーっ。大きな声で騎士を呼んでーっ!」
MCの吟遊詩人の女の子の声が響く。さあ、始まりだ。頑張るとするか。