兼業冒険者
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「いらっしゃいませーっ」
僕はお客さんに挨拶をする。入ってきたお客さんを威圧しないように揉み手に笑顔を装備している。
ここは王都に最近出来た、『コンビニエンスストア』という新しいスタイルのお店。綺麗な店内には多くの棚が有り、それには生活雑貨、保存食品、新聞や雑誌、飲み物やお酒、はたやお弁当なども並んでいる。南の壁はガラス張りで外から中がよく見え、店内はとても明るい。店内には遠視の魔道具が幾つも据えられ、店内で何かトラブルが起きた時にはそれをコントロールしている下位精霊により、即座に防衛ゴーレムが派遣されるという。あと、会計も魔道具で、商品に魔道具をかざすと自動的に金額を計算してくれて、お客さんがお金の投入口にお金を入れると、自動的にお釣りが出ると言う仕組みだ。しかも、それを参考にして商品を仕入れていくという。
魔道都市アウフが、その財政難を乗り切るために新しく始めたもので、その巨額な初期投資はその店の人気と24時間フル営業により、数ヶ月で回収出来る見込みだという。
なぜ僕がこんな事しているかというと、冒険者ギルドの掲示板で募集がかかっていて、8時間の店内業務で小金貨1枚という報酬に釣られたからだ。1日小金貨1枚なら、週1休んだとしたら月に小金貨24枚くらい稼げる。駆け出しの冒険者の倍以上はあるのでは。なんの危険も無くこんなに稼げるのなら、冒険者って職業が無くなってしまうのではないだろうか。
最近は兼業冒険者という言葉を良く聞く。何か仕事をしながら、その休日に冒険に出る者達の事だ。生活基盤を築きながら、比較的安全な仕事を受けて、堅実に実力を付けながら一攫千金をねらっているらしい。
徐々に店は忙しくなってきた。店は基本的にツーマンセルで、僕の相方は店長さんだ。僕は店長さんに教えて貰いながら業務をこなす。基本的には商品の品出し。店の裏に納品された商品を古いものが前に来るようにどんどん並べていく。お会計には店長さんが行って、会計にお客さんが並んだら僕も会計に行く。品出し、会計、品出し、会計。する事が途切れたら掃除。うわっ、これはきつい。一息つく暇もない。この仕事、たまにする分にはいいけど、これが毎日は僕には無理だな。
ふと、考える。僕は何してるんだ? 確かにお金は稼げるし、安全だけど、今、ここで僕がしている事は何か将来僕のためになるのだろうか? 冒険に出たら、終わった後には何かしら成長するものだ。強くなってる事もあれば、新しい知識を得る事もある。今してる仕事では、愛想の良さ、会計スピード、品出しのスピードは上がっていくだろう。それも悪くはないが、その先にあるものは、僕の目指しているものとは何か違う気がする。
それでも、それからしっかり仕事をこなして報酬を貰った。
兼業冒険者って大変そうだな。
そうだな、明日は冒険に出よう!