塔の上の魔道士
東方諸国連合の最も西に位置する、傭兵都市オリバン。またの名を剣闘都市。街の外からも城壁を突き抜けて見える巨大なコロシアムがあり、そこで行われる拳闘による賭博や、剣闘士として一攫千金を求める者が大挙する。この町には世襲制の王は無く、二年に一回の大剣闘祭で世界各国から腕に自信がある者が集まり、それを勝ち抜いた者が出自種族に関係なく王になる。
傭兵都市オリバンの城門を僕はくぐる。厳つい冒険者や傭兵に囲まれながら。今年は大拳闘祭が行われるらしく、前に来た時より人がごった返している。
僕はコロシアムではなく、冒険者ギルドに向かう。僕の得た情報によると、オリバンには金銭が集まる故に沢山の依頼が集まるという。それに、オリバンの比較的近くには太古の遺跡が点在し、それらに関する高難易度の依頼もあるらしい。
ギルドに入り掲示板を食い入るように眺める。けど、やはりここでも討伐系の依頼が少ない。冬は冒険者にとっては冬だな。大人しく炬燵でミカンでも食べてた方が良かったか……
そう落胆しながら掲示板を眺めていると、端にひときわ古びた依頼の紙切れを見つける。
『太古の遺跡に巣くう、邪悪な魔道士の討伐』
魔道士か、余り得意では無いが、報酬がべらぼうなので、詳細を調べてみる事にする。
太古の遺跡の奥に屹立する、『黒曜の塔』そこに邪悪な魔道士が住み着いているという。そこに向かった調査団は帰る事無く、それからも数多の冒険者が向かうが帰ってきた者は僅かだった。そこから帰還した者によると、塔の中は強力な魔物と悪辣な罠がひしめき踏破は難しいだろうとの事だ。入らない限り実害は無いので放置状態で、一応ギルドからは討伐依頼を出しているそうだ。ギルドの職員が語ったのは概ねこんな所だ。
僕はその依頼を受ける事にする。強力な魔物、悪辣な罠、望む所だ。僕は期待に胸を躍らせながら、塔へと向かう。
天を突くかのような、巨大な黒光りする塔。それについている、両開きの扉の前に僕は立っている。
僕はこれから起こる冒険に心躍らせる事は無かった。
塔は瞬時に消え去り、目の前にはぽっかりと大きな穴。そこに空から様々な魔物が降ってきて穴に吸いこまれていく。ゴミは穴掘って埋めるに限る。見たとこアンデッド系が多いみたいだな。金目な奴は居ないな。やった事は簡単、塔を収納にしまって、その下の土も収納に入れて深い穴を掘っただけだ。飛べる魔物が少しはいるかと思ったのだが、残念だな。
最後に空からふよふよと、ミイラみたいなものが落ちてくる。汚ぇ、全裸の爺のミイラだ。もしかして、塔の魔道士か?
「貴様ーっ! ぶっ殺す」
なんか変態が叫んでいる。僕は座ってコーヒーを飲みながらそれを見ている。
「滅せよ! 分子分解!」
変態の手から白い光が伸びてくる。それを収納にしまって、変態の後ろから出してやる。
「グワッ!」
変態は一言叫ぶと、軽く点滅し光の粉になって消え去った。あぶねーっ。あれヤバい魔法だったんじゃね?
辺りが静かになったので、穴を埋めて、オリバンへと戻る事にする。この塔って魔道都市で売ったら結構な額になるはずだ。