青空
「綺麗な青空だな……」
雲1つ無い青い空を見て、誰とはなしについ言葉が漏れる。
「ザップ、何当たり前の事言ってるのよ。空は、青空はいつでも綺麗なものよ」
マイが僕を見て微笑む。ちょっとマイも綺麗だなって思ったけど、口には出せない。
「ご主人様、私はずっと穴蔵の中だったから、青空ってめっちゃいいですよね」
ドラゴン娘はケラケラと笑う。その笑顔も晴れた空には似つかわしい。
『本当に雲1つ無いですね。つまんないから隕石の1つや2つぶっ放しましょうか?』
小柄なスケルトンから風にのって声が届く。幼女導師ジブルだ。歩くのに疲れたからスケルトンらしい。スケルトンは疲れないと本人は言っていた。青空に最も似つかわしくないクリーチャーだ。綺麗な空は彼女の心を洗ってはくれないらしい。見た目幼女なのに中身はど腐れた大人だな……マイの爪の垢でも煎じて飲めばいい。けど、例えにしても、爪の垢を煎じて飲むってエグい言葉だな。
抜けるような青空を見て、僕は過去に思いを馳せる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は毎日ひた走っていた。大陸最強の【ゴールデン・ウィンド】の仲間達に物資を届けるために。そのまま逃げてしまおうかと思ったけど、それは出来なかった。仲間達は死んでもいいクズだと思ってたけど、今、彼らが相手にしているのは闇の軍勢。彼らが倒れると、大勢の人間が犠牲になる。僕は荷物持ちだったから、闇の軍勢がどんなものだったのかは知らないけど、国の騎士団と近隣の冒険者を総動員していた事からかなりの大事だったのだろう。
「なぁ、綺麗な青空だなぁ」
不眠不休で物資を運び続けて、すこし落ち着いて、地面に横たわって空を見ていた僕に誰かが話しかけて来た。見ると、冒険者だろう。くたびれた鎧に煤けた体、深い皺が刻まれた顔。戦い続けていたのだろう。僕の隣に座り空を仰ぎ見る。
「空が綺麗でも、僕にはいい事は無い……」
僕はそのおっさんから目を逸らす。
「そりゃ、そうだわな。けど、いい事あろうが、無かろうが、空は綺麗だ。綺麗な空、見られるだけで幸せだろ。金があって贅沢出来ても、綺麗な空に気付かない奴はつまんないんじゃねーか?」
僕はおっさんを見る。
「おめーが、空を見てる限り、おめーは幸せなんじゃねーか?」
「そうだな、なんか理由は分かんないけど、頑張れそうな気がしてきたよ」
僕は立ち上がり、おっさんに手を振り、走り始めた。次の物資を運ぶために。
それから、そのおっさんを見る事は無かった。今もどっかで、僕と同じ綺麗な青空を見てるんじゃないだろうか?
「綺麗な空だな……」
僕は空を仰ぐ。
「うん、とっても」
マイも空を見上げる。アンとジブルもそれに習う。
空が綺麗と思える限り、僕の心は強くあれると思う。