荷物持ち雪山の村へ
『物資の輸送をお願いします。少量でも結構です!』
なじみの街の仮説冒険者ギルドの掲示板に新しい依頼が貼ってある。詳細を見るとここ数日の大雪で、山間の村との往来が途切れているそうだ。近々に問題は無いそうだが、徒歩で輸送出来る山慣れした者を求めているとの事だ。報酬は大した事ないが、人助けっぽい仕事だ。僕ならば、半端ない物資を運べるはず。たまには輸送もしないとな、荷物持ちだしな。
依頼主から荷物を受け取り、村に向かう。当然驚愕された。今年の冬に運ぼうと思ってた物資を全て収納に入れたからだ。
寒い中丸々と厚着して、道を走り進む。山に近づくにつれ、辺りはちらほら白くなり、裾に着いた時には一面銀世界だった。つい、しばし佇んでしまう。
綺麗だ……
道は途切れ、先が解らない。だが、問題無い。
放出した収納のポータルにどんどん雪を入れていき、露出した道をひた走る。普通は2日3日かかるみたいだが、最大スピードで走っているので、しばらくして村に着いた。ビビるのは雪、僕の背丈以上に積もってるぞ。
村の中は雪の中に道が掘ってあり、太い方太い方に進むと広場に出た。その脇にはドーム状の雪を掘った小部屋みたいなものが幾つかあり、その中で人がコンロで温まっている。幻想的な光景に一瞬息をのむ。
中の人に話かけて聞くと『かまくら』というものらしい。雪で作ったと思われる部屋の中で火を焚いてもそれが溶けないのは不思議なものだ。
かまくらの中の人に聞いて、荷物の受け取り主を探す。ここの人々はフレンドリーだな。さっきの人の長話で、ここは鉱山と温泉が有名な村で、道が通っている時は、観光客がそこそこ来るらしい。温泉か、いいな。
受け取り主の所に行き荷物を受け渡すと、それはそれは喜ばれた。帰りに運ぶここの特産品もしこたま収納してこれも喜ばれた。その時に建物の雪かきも出来ないかと頼まれる。結構な額を提示されるが、容易い事なので子供の駄賃くらいの値段で引き受ける。
しばらく後には、荷物の受け取り主(実は村長さんだそうだ)に頼まれた所の雪を全て収納に消し去る。いつの間にか、村人達が集まっている。報酬は積もり積もって結構な額になっていた。それに、雪かきは重労働らしく、とても喜ばれた。
そして、僕は今、1人温泉に浸かっている。銀世界を眺め、この村で一番素晴らしい酒を少し嗜みながら。
うん、極楽ってやつだな。
たまに木々から雪が落ちる音などが聞こえる。優雅な一時だ。
寒い冬でも、無精しないで動いたら、色んな事に出会えるものだな。今度はマイやアンも連れて来よう。
そして、僕はグラスを傾けた。