第六十六話 荷物持ち晩餐をいただく
壮年の執事に連れられて来た場所は食堂だった。促されるままに席に着く。上座にはポルトが座っている。僕達が席に着くと、それを合図かのように、テーブルにどんどん前菜っぽいものが運ばれてくる。見たことも無い食べ物ばかりだ。それをメイドさんが器用に取り分けて、一人一人に持ってきてくれた。
「ザップ、食え、無礼講だ、マナーは気にせず手で食ってもいいぞ、フィンガーボウルはあるからな」
「ポルトふざけろよ!田夫野人扱いするな。俺だってナイフフォークくらいは使えるぞ、おとなしくフィンガーボウルの水でも飲んどけ!」
「この水いいにおいしますね、美味しいですよ」
アンがうまそうにフィンガーボウルの水を飲んでいる。やりやがったな。
しょうがなく使い方を説明してやる。
「嫌ですねー、もう、手を洗うためのものだって始めに言って貰わないと、食卓にのぼったものは、全部残さず食べないとと思っちゃうじゃないですか」
いかん!すべてまるっと持っていかれた!これからどんな美味しいもの、珍しいものが食卓にのぼったとしても今日の晩餐はアンが美味そうにフィンガーボウルの水を飲んだ晩餐と認識されるだろう。
事実、美味しいフルコースがでて来たけど、内容はおぼろげにしか覚えてない。アン恐るべし、さすがドラゴン!
さらに、もっと欲しいとポルトに頼んで鬼のような量を食べてまわりを辟易させていた。食事に関してはこいつの右に出る者はいないな。
デザートのフルーツ盛り合わせをコーヒーと一緒にいただいているときに、ポルトが本題に入った。
「明日、城で王から直々に、俺を助けてくれた褒美を受け取って欲しい」
「なんでそんなかったるい事するんだ?依頼料なら、ここでくれればいいじゃないか?」
城の中は見てみたかったけど、王から褒美を賜るとなると、話が違う。そんなフォーマルな所で上手くやれる自信が無い。なんかやらかしそうだ。
「そうしたいのはやまやまなんだが、世間に知らしめたいんだよ、誰かが俺の命を騎士を使って狙った事を。面倒だと思うが頼む、この通りだ」
ポルトは、僕に向かって頭を下げる。ポルトは王族なのによく頭を下げる。王族としてはよくない事、ふさわしくない事かもしれないが、僕はそれはいいことだと思う。しょうがないので面倒くさいけど引き受けてやることにする。
「頭を上げろポルト。わかったよ。マイ、アンいいか?」
「いいわよ」
「ご主人様がいいならいいですよ」
「ありがとう、すまない、助かる。今日はここに泊まっていってくれ」
しばらくポルトとたわいのない話をしたあと、僕達は各々の部屋に案内された。