初稽古は寒稽古 (後)
「今なら許す。しょうもない悪さした奴前に出ろ!」
僕は吼える。とは言っても、ここにいるメンバーには犯人はいなさそうだ。滝の水量が増えたのは魔法とかによるものだろう。僕の方に水が増えたのと反対に滝の他の部分の水が減った。水のコントロール。いや違う。重力魔法とかでこっちに水を引き寄せたのだろう。そんな魔法を使える人物は只1人、導師ジブルしか思い浮かばない。少女冒険者の魔法使いのルルはそんな器用な事は出来なさそうだし、『地獄の愚者』のメンバーも同様だ。と言うことは。
「お前ら、全員道連れだっ」
今、濡れた体が滅茶寒い。なんか腹立って来た。僕は四方八方にポータルを放ち、マイとマイの煮物以外の所に滝から取った水をぶちまけてやる。
見つけたっ!
降り注いだ滝の水で濡れた大地に不自然に乾いた場所。そこに駆け寄り見えない何かを引っ掴む。ビンゴだ。
「な、なんで?」
僕の掴んだのは幼女導師ジブル。
「げえっ、なんで見つかったの?」
妖精ミネアが飛んで逃げる。やはり、妖精の不可視の魔法で、隠れて居やがったのか。
「寒稽古、楽しんでこい!」
僕はジブルを滝つぼに投げ込んでやる。死にはしないだろう。
僕は視線を感じ振り返ると、水をかけられた者共が、こちらを憤怒の形相で見ている。まあ、寒い中水ぶっかけられたらそうなるわな。面白い。寒稽古を十分に楽しむとするか。かくして、冒険者達とのバトルロイヤルが始まった。
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「お前ら、まだまだだな。修行して出直してこい!」
まずは襲いかかってきた、少女冒険者達を最大のパワーとスピードのみで、滝つぼに放り込み、『地獄の愚者』のメンバーも同様にしてやった。マッスルレリーフもぶん投げて、デル先生は善戦したけど、本気を出した僕の前では無力だった。大口を叩いてはいるが、実際は全力を出さないとヤバかった。全員いつの間にか強くなりすぎだろ。
「うおっ!」
背中に衝撃を感じた瞬間、僕も滝つぼに飛び込んでいた。
「ザップ! 調子に乗りすぎよ!」
水から顔を出すと、腰に手をあてているマイが見える。なんだと、マイは参戦しないと思って油断はしていたが、全く気配を感じなかった。これはイカン。僕ももっと強くならないと多分スキル無しではマイの方が強いのでは……
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「おおっ、うめー、温まる」
僕たちはタオルに包まって火にあたりながら、マイの作ったぜんざいを食べている。東方の料理だそうで、甘い豆の汁の中に餅が入っている。
「私もまだまだですね。こんな私がザップさんに教える事なんてあるのでしょうか?」
デルが僕の横に腰掛ける。
「何言ってるんだ? 身体能力無しだったら、俺はデルに手も足も出ないだろ。これからもいろんな技を俺に教えてください」
僕は右手を差し出す。
「ありがとうございます。今年も一緒に修行しましょう」
デルはその差し出した右手をしっかりにぎる。それに、マイ、レリーフ、存在感皆無だった子供族のパムも手を重ねる。
そしてそのあと、テンションの上がったデルに率いられて、僕とレリーフとパムは滝に打たれながら、千本突きと千本蹴りを三セットも繰り広げた。正直意識を持ってかれそうだった。格闘技講座、止めたがよかったかも……