初仕事
「これなんかどうですか?」
ドラゴンの化身アンが1枚の依頼の紙切れを持ってくる。
『激辛辛麺大食い大会。優勝者には金一封。目指せ次の【大食いチャンピオン】』
「ん、なんだそりゃ? 明らかにギルドの依頼じゃないだろう。確かにお前が出場すれば優勝だろうけど、今日はみんなで出来る仕事にしよう」
多分、なけなしの頭を使ってボケたのだと思うが、冷静に返してやる。今日はドラゴンの大食いをみんなで鑑賞するつもりは無い。胸焼けするのは嫌だし、今日は初仕事、しっかり稼ぎたい。
それにしても、掲示板にはロクな仕事が無い。まあ、冬だし、まだ年明けて間もないから全体的に物事が動いていないのだろう。僕たちも炬燵からほぼ動いて無かったしな。それにギルドにいる冒険者も少ない。来るのが遅かったから、割のいい依頼はあらかた物色された後なのだろう。知り合いパーティー『地獄の愚者』たちも居ない。
「ザップ、いい仕事探してきたわ」
幼女導師ジブルの持ってきた紙切れを見る。もう見る前から解る。明らかに依頼の紙じゃない。紙質は良いし、字がカラフルだ。
『王国主催新春一発芸大会! 優勝者には豪華景品あり!』
ほう、王国は平和だな。国主催で下らない事してるんだな。ポルト、暇なんだな……
僕の頭にこの国の国王様の顔が頭に浮かぶ。たまには遊びに行ってやるか……
「確かに、お前とアンなら変身系の一発芸でいいとこまで行けると思う。けど、残念ながら俺には大した芸はないから却下だな」
冷静に返してやる。ここで熱くなったら、泥沼だ。あいつらは喜んで調子に乗りやがる。
「つまんないの」
お前がつまらんわ! と言う言葉を呑み込む。
「ザップ、いい仕事があるわ」
マイが駆け寄ってくる。ん、何処から依頼を持ってきたんだ? 明らかにギルドの外からきたよな? 差し出された紙切れを受け取る。
『至急モンキーマンザップの代役求む。アクションが出来てモンキーマンに似てる方、助けて下さい』
むむっ、マイまでもか……
確か僕ら冒険者だよな?
「ザップ、ザップ役の役者さんが怪我して困ってるみたいなの。助けてあげようよ、報酬も悪くないし。みんなザップの劇を見るの楽しみにしてるんだよ」
むぅ、マイがそう言うなら仕方ないか……いつも家事全般頑張ってもらってるし。
それに、人々に夢を与えるのも冒険者の仕事のうちの1つだ。
ギルドには大した依頼が無い事だし、諦めるか……
『俺は最強の荷物持ち、ザップ・グッドフェローだーっ!』
勇者役の役者さんが崩れ落ち、導師ジブルが風魔法で僕の声を響かせる。僕はずっと口パクで、ジブルが僕のセリフを担当している。
王都コロシアムは超満員でなんだかんだで1週間公演は続いた。マイとアンも出演し大盛況だった。
「ザップ、このまま役者さんになっちゃおっか」
観客に手を振りながらマイが悪戯っぽく笑う。マイは緊張しないのだろうか?
「何度もドラゴンになったので、お腹すきますね」
アンも観客に手をふっている。奴は全く緊張しないのだろう。
「よ、喜んで貰えるのは悪かないけど、早く冒険にイキタイヨ」
僕は、軽く目眩を覚えながら、観客に手を振る。何人いるんだ? 数万人? いかん、全身から汗が止まらない。
うう、初仕事で軽く討伐にでも行くつもりだったのになんでこうなったのだろう……
今年も波瀾万丈の香りがする……
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