姫と筋肉 ラビリンス (6)
「それでは、詳しい話を致します」
爺さんは恭しく頭を下げる。
僕たちは石造りの通路を歩き、少し広めの部屋に案内された。部屋の中は温かく石を削って作られた椅子とテーブルに案内される。レリーフが1番奥、僕が左、そして爺さんは入り口を背に座る。石造りの椅子は冷たいだけじゃなく、動かないので位置調整出来ずとても座りにくい。それに加え、何故かレリーフが上座っぽい所に当然のように座っているのがなんかムカつく。やっぱり一度シめてどっちが上かはっきりするしかないな!
「ここはバルトバルト王国の北に位置する迷宮で私はここで研究を続けている魔道士です。迷宮にある、魔物召喚の魔法陣を組み合わせて魔王召喚魔法陣を完成させて、使用してあなた様が召喚された次第でございます。あなた様が召し上がられたのは『力の豆』、私が呼ぼうと思った魔王は『猿人間魔王』、猿と言われるくらいですから豆がお好きだろうと思って準備していた次第でございます。『力の豆』とは、食べた者の力を底上げする魔法の豆。その量になりますと、金額はつけられない程になります」
「そうなのか? 全く力がついた気がしないが?」
そりゃそうだろう。レリーフの腕力はべらぼうだ。普通の人の10の力が20になったら体感できると思うが、レリーフの1000の力が1010になったところで微差だろう。
「そうか、それなりに素晴らしいものだったのだな。それで何をすればいい?」
「はい、まずはこの迷宮を攻略して、そのあとはその力をもって、この国を侵略して欲しいです」
なかなかぶっ飛んだ爺さんだな。しかも強欲だ。なにさらっと国の侵略とか言ってんだよ。
「国の侵略は冗談だとして、やって欲しい事は迷宮の攻略だな。その前に爺さんどうやったら僕たちは元の場所に戻れるんだ?」
「ん、小娘、そんなの時間が経ったら戻れるにきまってるだろ」
なんかゴミを見るような目で爺さんは僕を見ている。僕は自慢じゃないが、容姿はそこそこなものだと思う。間違いなくこの爺は男好きだな。
まあ、でも時間がたつと戻れるのなら、僕も冒険者のはしくれ、ここが迷宮なら潜るのもいいだろう。
「それでは翁、この迷宮について教えてくれ」
そう言うレリーフの金色の体はなんか色が薄いような? 向こうの壁が透けて見える。
「なにっ、もう時間か、そうか2人来たから制限時間がもうきたのかっ。くそう、また魔力が溜まるのにはまた1年かかるぞっ! 私の世界征服の野望がっ!」
爺さんの顔が悪鬼のように歪む。それと僕らの回りの景色が色彩を失い透き通って行く。えっ、もう戻るのか? そう言えば僕はキンキラ金なのでは?
「レリーフっ! 僕らの肌はいつ戻るんだ?」
「さぁ、調べた事ないからな。数時間じゃないのか?」
興味なさげなレリーフにプチ殺意を覚える。嫌だ。もう二度とコイツに関わりたくない。
軽いめまいのあと、僕たちはお店に戻っていた。
「もうっ、ラパンちゃんどこ行ってたの? 男性のお客様と居なくなったから、みんな心配してたのよ。ラパンちゃんが筋肉フェチじゃないのかって」
マリアさんが駆け寄ってくる。大丈夫。僕は筋肉大っ嫌いです。むしろアレルギーになりそうです。もっと全うな心配して欲しいものです。
「うわっ、ラパン、なにそれ、金色? レリーフさんとお互いに金粉塗りあいっこしたの? 誰得? それって楽しいの?」
シャリーちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。ちげーわ。事故だ事故。
「うーん、それって、祝福系のバフね。おめでとうラパン」
妖精も飛んでくる。確かに新年に金色はめでたい気もするが、個人的にはめでたくないわ。
「それでは、女将、勘定だ。じゃあなラパン」
レリーフは事もなげにお金を払って店を出る。アイツのメンタルはアンデッド並みに不死身なのか?
それにしても何だっのだろうか? どっかに召喚されて金色になって帰って来た。ええ事無しじゃのう。
僕の肌が普通に戻るのにはそれから2日かかった。みんなに笑われまくった……
レリーフへのヘイトを募らせつつお店では皿洗いなどして、人前に出ないように生きていった。
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