酒場
今年はありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
「ゆーくーとし、くーるーとし、しーあーわせーにー♪」
酒場の隅では人魚が歌っている。くそ寒いのに貝殻のブラだけで、水がはってあるタライの中に入っている。寒くないのか? その隣では子供族のパムがリュートをかき鳴らしている。
「投げ銭は、小金貨以上でお願いします!」
パム奴が贅沢極まりない事をほざいている。なんて厚かましい奴だ。僕は立ち上がり、銅貨をジャラジャラ空き缶に突っ込んでやった。
「出ましたっ! 猿人間必殺の魔法の収納! 皆様、盛大な拍手をっ!」
店内は拍手に包まれる。僕は照れながら席に戻る。さすがパム。プチ嫌がらせすら盛り上げる。今日は祭りのようなものだ。なんでもウケる。再び人魚が歌いだす。
ここは『みみずくの横ばい亭』。家の隣の酒場兼レストランだ。今日は大晦日、みんなで食事をしながらお酒を嗜んでいる。今日だけはどんだけ飲んでもいいと、マイから許可がおりている。僕のいるテーブルには、マイ、ドラゴン娘アン、見た目幼女の導師ジブルが居る。隣のテーブルには少女冒険者4人、アンジュ、ミカ、ルル、デルがいて、その横のテーブルには、王都最強パーティーの『地獄の愚者』の3人、戦士デュパン、聖騎士ジニー、死霊術士のレリーフがいる。吟遊詩人のパムはさっきまで座ってたけど、人魚が歌い始めたのに引き寄せられて、伴奏している。
あと、少女冒険者たちの反対の隣のテーブルには、魔王メンバー、北の魔王リナとその四天王の人型ネコのモフちゃんと、さっきまで人魚がいた。メイド軍団も今日はフル出勤で、元姫様のラパン、元大神官のシャリー、忍者ピオンとパイ、猫耳二号のケイ、それと迷惑妖精のミネアは人間スタイルだ。店は満席で、僕の知り合いでかなりを占めている気がする。
今日はこのあと、新年に向けてのカウントダウンをここでする予定だ。
「前までは、ボッチだったのにな……」
つい、酒のせいか、考えてた事を呟いてしまう。
「そうなんですね、私なんて、多分数百年ボッチだったと思われますから、それよりはマシですよ」
着膨れドラゴンが慰めてくれてるのか?
「ボッチの方がよかったの?」
マイが僕の方を見る。
「いや、そうじゃない。けど、昔と俺は何が代わったのかな」
「そりゃ、力でしょ。力がある者の下には人が集まるものよ、私みたいに、私なんて昔からいつも沢山の友達に囲まれてるわ」
幼女導師が胸を張る。なんか嘘臭いな。多分コイツもボッチだ。同類の臭いがする。
「力だけじゃないと思うわ。あたしはここに居たいからここにいるし、ここに来ているみんなもそうしたいからここにいると思うわ」
マイが僕に微笑む。
「そうなのか」
なんか、分かったような、分からないような感じだけど、すこし暖かい気がする。
「それでは、みなさーん、また、いきますよー! 大晦日にかんぱーい!」
酔っ払って陽気になったマイが立ち上がって乾杯の音頭をとり、僕達はジョッキをぶつけ合って、お酒を飲み干した。
悪くない。また、来年もみんなで集まれたらいいな。そのために、来年も一生懸命頑張ろう。