レアステーキ肉寿司
「肉寿司が食べたいです!」
ひがな炬燵から出て来ないドラゴン娘のアンが、なんとリビングに入ってきた。開口一番、食べ物の事なのはブレてない。最近は僕たちもご飯を食べる時は炬燵にお邪魔するし、アンはお腹が空いたら隣の店から出前をとっている。
僕とマイはリビングでゆっくりしていて、導師ジブルは仕事だ。
「そうね、アンちゃんのお仕事が上手く行き始めたみたいだし、そのお祝いしないとね。今日は奮発するわ。寒いから炬燵で待っててね」
マイは優しそうに微笑む。ちょっと甘過ぎるんじゃないかと思うが、マイの言うとおりだ。前は炬燵に籠もるだけの生き物だったけど、今は魔道都市で作った炬燵をリザードマンに売るというビジネスを始めて、それが上手く行き始めた所だ。
僕たちのお金は、収納の中で共有資金と個人資金に分けてあって、アンから共有資金に振り込まれ始めた。しかも結構な額だ。商売は迅速を尊ぶとは言うが、まじで展開早いな。
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「塩コショウしたお肉を、表、裏をしっかり焼きます」
100gくらいの直方体のお肉をマイが焼く。なんと、肉を焼くためだけに外に出て炭をおこして、その上に置いた網で焼いている。
「わざわざ炭火じゃなくても良かったんじゃないか?」
「やっぱり、炭火は美味しいのよ、肉から落ちた脂や肉汁が炭に落ちて焼けて、香ばしい匂いがつくのよ。けど、温度調節が難しいのが欠点ね」
お肉は切ったらちょうど寿司ネタになるような扁平した直方体だ。その1番広い2つの面をしっかり焼き目がつくまで焼いた。そして次は残りの2つの面を焼いて切り口を焼いた。
「触って中まで柔らかくなったら、次はお肉を休ませるわ」
マイは焼いたお肉を皿の上に乗せて、蓋をする。
「お肉を焼いた時間以上は休ませるの。焼けたばかりのお肉は中で液体がボコボコしてて、沸騰したヤカンみたいなもので、切るとドバッと血が出るわ。それをしっかり休ませると中が落ち着いて切っても血が出なくなるわ。無理矢理お肉を揉んだら落ち着くのは早くはなるけど、食感が悪くなるから待つのがベストよ」
マイが饒舌だ。
「料理好きなんだな」
「んーん、料理じゃなくて、料理を食べて喜んで貰えるのが好きなの。美味しい料理を食べた人が、その美味しさで表情が緩む瞬間、あたしは勝ったって思えるわ」
そう言うマイの目はキラキラしてる。そんなマイを見るのが僕は好きだ。だから寒いのについて来てしまった。
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「「「いただきます!」」」
炬燵に入った僕たちの目の前に並んでいるのは、マグロのような赤いお肉がのった肉寿司。真っ赤ではなく、すこしピンクっぽい。
僕はまだ食べず、アンとジブルを見ている。食べた瞬間、ぱあっと表情が明るくなる。これがマイが好きな瞬間か。
僕も醤油につけて口にする。甘い、しっとりとしていて口の中に甘さが広がる。多分、僕もアン達みたいな表情になっていた事だろう。
そして、僕らの寿司争奪戦が始まった。
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