こたつ姫
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「ううう、さびぃ、邪魔するぞ」
僕はドラゴン娘アンの部屋の扉を開けて中に入る。おお、ここは別世界だ。まるで春のような暖かさだ。
「ご主人様、冷気が入ってくるから、早く閉めて下さい!」
「ああ、悪い」
ドラゴン娘に叱られて、即座に扉を閉める。
部屋の中央には炬燵が鎮座し、部屋の四隅には暖房の魔道具が設置してある。部屋に入って正面にはこの部屋の主である、ドラゴンの化身アンがいる。赤い半纏に白地に赤い星模様の角当てをしている。
炬燵の右手には、ここの常連、少女冒険者4人のうちの1人、魔法使いのルルがいる。テーブルの上に大きな胸をのっけて、本など読んでいる。相変わらず目の毒だ。見たら負けだ。視界に入れないようにする。
そして、その隣には幼女がぐてーっと寝ている。目は開いてるので、怠惰を満喫しているのだろう。うちの魔法使い、導師ジブルだ。最近は仕事が休みの時はここに入り浸っている。
左手には新顔、ごついリザードマンがいる。目を細めて幸せそうな顔しながら、お茶を啜っている。
多分デカいから、リザードマン王だと思うのだけど、名前が思い出せない。
とりあえず、入り口に近い席に座ってソロソロ足を入れる。
「ザップ兄さん、寒いのに、よく頑張りますね」
魔法使いルルが、本を閉じて口を開く。今、そのアクションで、奴の化け物がブルンと揺れた。威嚇しているのか?
「さすがに寒いが、素振りしている時は集中してるから、寒さは感じない。それに頑張ってる訳ではないよ。素振りする事を、ご飯を食べたり、呼吸するかのように当たり前だと思うようにしている。頑張ると気負ってしまうから長続きしないと思うからな」
確かに寒い。面倒くさいから止めよっかなと思う事もあるが、コツコツ毎日続ける事は大事だ。冒険者で有る限り、素振りは日課にするつもりだ。
「さすが、ザップ兄さんね、『ザップ語録』にメモっとこ」
ん、なんだ、その『ザップ語録』って? また、変な噂流されるのか?
またルルは読書始めたので、とりあえず、ほっとく事にした。化け物は本の奥にいたので、またブルンと揺れるのをガン見してしまった。アンの視線を感じ慌てて目を逸らす。
「そう言えば、お前、名前ブルンガだったか?」
話を逸らすべく、リザードマンに話しかける。
「いや、ブリンガだ」
いつの間にか、言葉が流暢になっている。
「え、ブリンガって言ったよな?」
「…………」
ブリンガは黙る。
「ブリンガ、言いたい事は言っていいですよ」
アンが会話に割り込んでくる。
ガバァっと幼女が起き上がる。目が爛々してる。
「今、確かに、ザップはブリンガの事をブルンガと言いました。大方ルルさんの胸がブルンブルンしてるのを見て思わず口に出たのでしょう。見たいけど、見ちゃいけない。その抑圧された強い思いが、ポロッと言い間違いという形で表に出たのでしょう」
ジブルが楽しそうに僕の心を分析しやがった。確かにそうかもしれない。顔が熱くなる。
「ご主人様、そこまで、見たいなら、見てもいいんですよ、まぁ、マイ姉様には報告しますけど」
「えー、ザップ兄さんってそんなに私の胸に興味が……」
ルル、寄せるな寄せるな。チラ見しちまった。なんか変な汗出てきたような。
「おいおい、ちょっと待てよ。それよりもお前ら、お金稼がずに贅沢しすぎじゃないのか? 暖房つけすぎだろ」
とりあえず、話をずらそう。
「おやおや、自分が不利になったからって、八つ当たりですかぁ?」
ジブルが目を細めて僕を見る。
「ご主人様、私たちは、今、商談中なのですよ」
「何言ってやがる。炬燵でゴロゴロしてるだけだろう」
「アン様、ジブル様、これは間違いなく我が国で普及すると思います。あとは大臣達と詰めてきます」
ブリンガはそう言うと立ち上がり部屋から出て行った。
「ご主人様、リザードマンは私と同じく寒がりです。これと同じ物を原価にすこしのっけた形でリザードマンの国に売るんですよ」
むぅ、何も言い返せない。
そして、しばらく後、リザードマンの国でアンは『こたつ姫』と呼ばれるようになった。