第六十三話 荷物持ちと王子
「王子様、俺が聞きたい事は一つ。あんたを護衛して犯罪者にはならないんだよな?」
揺れる馬車の中、正面に座っているポルトの目を見て問いかける。
澄んだ強い意志を感じさせる瞳、整っていて何か見ていて安心感を覚えるような顔。美丈夫、そう言う言葉が頭に浮かぶ。今はインチキ冒険者のような格好だけど、正装をしたら王子と言われても違和感は無いだろう。生まれながらにして人を導いていく者としての資質を持ってるように感じられる。その手のものが皆無な僕からしては、うらやましいかぎりだ。
合流したあと、僕達は馬車に乗る事になった。マイが確保してきたフェルトという魔法使いの女性は、縄で後ろ手に縛って荷台に座らせられてる。目が覚めたみたいで死んだ魚のような目をしている。
馬車に乗せると言うことは、王子は僕といろいろ話したいのだろう。けど、正直全く聞く気はない。
王子が命を狙われるという事は政治とか跡取り問題とかその手の事だと思うが、僕は関わりたくない。とっても面倒くさいことになりそうだから。
「ああ、その点は大丈夫だ。安心してくれ。私の本当の名は……」
「まて!」
僕は王子の言葉を強く遮る。
「お前の名前はポルト、それで十分だ。俺が受け持つのは護衛の仕事。内容は街までのお前たちの安全の確保。報酬は街への通行許可と一人あたま大金貨一枚これでどうだろうか?」
ちなみに、大金貨は銀貨100枚に相当し、だいたい仕事を始めたばかりの者のひと月の稼ぎくらいの金額だ。ぱっと見べらぼうな額に思えるけど、王族の護衛の報酬としては少なすぎるだろう。
馬車がゴトゴト揺れる。ポルトは腕を組み目を閉じる。なに格好つけてもったいぶってるんだ?破格な条件だと思うが。
「解った。その条件をのもう」
ポルトは目を開け僕の目を見て口を開いた。
やった、これでやっと街に戻れる。素材を冒険者ギルドで売って、服を買って旨いものを食おう。水浴びもしないと髭も剃らないとな。心の中にふつふつと喜びが溢れてくる。
「今、そんなに金は持ってないから街に戻ったら一緒に城に入り。そこで渡すという形でいいか?」
「ああ問題ない」
問題ないと言うより、むしろお城の中を見てみたい。こういう事が無い限り城の中に入る機会はないだろう。
馬車は街道に戻り、そこまで急ぐ事無く進んでいく。
ポルトがフェルトに尋問してたが、青い顔で終始無言を貫いていた。
僕は御者台に座り行く手を見る。街が待ち遠しい。他のみんなは寝たり起きたりしてたが、僕はずっと御者台に座り続けた。
そして前方に城壁が見えてきた。僕の心に得も言われぬ嬉しさがこみ上げる。