自重無し (前)
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「せいやーっ!」
気合一閃、僕の振るった『絶剣山殺し』は目の前にいたリザードマンをなぎ払いぶっ飛ばす。目の前には扇型の空白地帯が発生する。けど、今日は峰打ちだ。剣の腹で打ち据えた。殺戮が目的じゃないからな。
蹂躙、蹂躙が目的なのだよ。
今日は刀身が30メートルはある化け物大剣を手に、装備は首と腰にこ汚いボロ布のみの、冒険譚で音に聞こえし猿人間装束。リザードマン達の間にも、その話は伝わってるはずと信じて、寒いけど頑張っている。
剣を収納にしまい、加速して移動し、さっき目をつけていた強そうな将校クラスのリザードマンを3人捕まえる。
「お前らの仕事は回復だ。死にかけている奴にこれを使え」
僕はエリクサーの泉につながっている収納のポータルを将校リザードマンに渡す。当然捕まえた時に武装は収納にいただいている。ポータルはひっくり返すとエリクサーが出るように設定してある。傷ついた将校達に実演で使い方を教える。
「言葉は解るよな。俺は自重しない。お前らの仲間はお前らで助けろ」
将校リザードマンたちは、大仰に頷く。
そして、僕は再びリザードマンの軍と対峙する。
十重二十重に連なる軍勢。それが皆、槍を構えて突撃してくる様は壮観だ。その行軍は大地を揺るがし、その轟音が耳を衝く。
リザードマンは戦闘種族。収納で武装を解除したくらいではまだ刃向かってくる。圧倒的な力でねじ伏せるしかない。決して僕がリザードマンが嫌いという理由では無い。
「死にたくなくば、道を空けろ。我が名は、猿人間魔王ザップ!」
あーあ、自分で言っちゃったよ。けど、この名前が広まってるから、煽動に使わない手はない。少しはリザードマンの士気が下がればいいんだけど。んー、少しは怯んだみたいだけど、全軍突撃かましてきてる。多分、万はいるね、万は。少し可哀相だけど、止むなし、お金の為だ。残念だが僕のクリスマスの為に犠牲になってもらう。
「うおおおおおおーーーーっ!」
僕は騎馬立ちで両拳を握り叫ぶ。たいして意味は無い。儀式的なものだ。殺到する大軍に対して何もしないのは失礼だ。せっかく僕の為に大勢集まってくれてる事だし、しっかりアピールして、今後の営業につなげないと。今から頑張りますよ的なアピールは必要だ。
「つーるーぎーの、おーーーう!」
叫んで両手を突き出す。これもたいして意味はない。演出だ。『剣の王』は、ただ収納に投げ込んだ剣を収納から出すだけだからな。今日の為に、せっせと夜なべして、柄を前にして数千本の剣をポータルに収めた。さすがにリザードマンをぶっ殺しまくるのは可哀相だから。
ズガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガがガガガガガガガッ!
収納から放たれた、無数の剣(柄が前の非殺傷用)がリザードマンを吹っ飛ばしていく。
そして、収納から出した、『絶剣山殺し』を正眼に構えて、それを水平に振るいながらリザードマンの軍の中を驀進していく。緑の体のリザードマンたちが血潮を撒き散らし、緑と赤の饗宴が目の前に広がる。僕のクリスマスパーティーが始まった。