表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

625/2100

 姫と筋肉 馬車


 ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


「それで、お前は何してるんだ?」


 乗り合い馬車の中央で腕立て伏せしている生き物に、僕はやむなく声をかける。誰かが勇気を出さないと、コイツはずっと続けていく事だろう。馬車に乗ってる間中、これを見続けるのは拷問でしかない。



 僕の名前はラパン・グロー。ウェイトレス兼冒険者だ。今日は久し振りに1人で王都の冒険者ギルドで依頼を受けた。運搬の依頼で隣町まで引っ越しの荷物を届けるものだ。僕には魔法の収納があるので、荷物はそれに入れて、乗り合い馬車に乗った。走ってもいいんだけど、たまには馬車もいっかなと思ったら、居やがった奴が。マッスル変態黒エルフのレリーフだ。何故か1人の時には高確率でコイツと遭遇する。もしかして呪いか何かなのか?



「何をって筋トレだが、どうした?」


 レリーフが僕に答える。始めは大人しくしていたのだが、おもむろに鍛え始めやがった。


「どうしたじゃないだろう! お前、みんなが迷惑してるだろ、少しは周りの事考えろよ」


「ん、そうなのか? では、誰か迷惑してる者は手を挙げろ」


 手を挙げたのは僕だけだった。他の乗客はレリーフを見ないようにしている。これって威圧だよな。


「多数決だな。ラパン、お前の間違った常識を人には押し付けない事だ。基本的には人は筋肉を愛するように出来ているものだ。ただ、一般の人は踏み出す勇気を出せないだけだ」


 何を言っているんだ、こいつは? けど、もしかして僕がおかしいのか? よく見ると乗客の数人はキラキラした目でレリーフを見ている。意外に筋肉ってモテるのか?


「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、やはり負荷が足りんな」


 レリーフは大胸筋につけた名前を呟きながら腕立て伏せを続行する。そうだ、もうアイツに関わるのは止めよう。

 レリーフは熱くなったのか上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる。乗客からどよめきが起こる。確かにレリーフの筋肉は凄いもんな。コイツ以上のマッスルを見た事は僕は無い。レリーフはしばらく腕立て伏せを続け首を傾げる。


「やはり物足りん。しょうがないアイツでも呼ぶか。闇夜の彼方より、来たれ太古の英雄……」


 ヤバイ、あのアホ、また高位のアンデッドを呼ぶ気だ。


 げしっ!


 とりあえず、レリーフの頭を踏みつけ魔法の詠唱を中断する。品が無いけどしょうが無い。あんなの呼んだら、乗客何人か失神するぞ。 


「そうか、お前が協力してくれるのか。けど、まだ負荷が足りないな」


 げっ、僕の踏みつけでもレリーフは少し体が沈んだだけだ。もしかして、コイツ、いつの間にか僕より強くなってるんじゃ?


「けど、よろしくない。女子がスカートで足を上げるものではないな。私は興味ないが、多分正面からは丸見えなのではないかな」


 げっ、そうだ、今日はスカートだ。僕は即座にシートに戻る。くぅっ、何から何まで裏目だ。恥ずかしくて泣きそうだ。


「レリーフ、死霊魔術ネクロマンシーをこんな所で使うなよ。みんな驚くだろ」


「それもそうだな。誰か、悪いが私の上に乗ってくれないか? 負荷が足りないんだ負荷が」


 何言ってる。誰も協力する訳ないだろ。


「わたしでもいいですか?」


「わたしも乗ってみたいです」


「あのー、わたしも……」


 え、まじか! 若い女性が3人もレリーフの上に座った。


「きゃ、すごーい!」


「カチンカチン!」


 しかもキャッキャ言いながら楽しんでる。他の乗客もいつの間にか暖かい目でレリーフを見ている。なんか僕の常識が崩れてきた。もしかして、僕がおかしいのか?


「やはり、馬車はいいものだな。移動しながら筋肉を鍛える事が出来る」


 それはお前だけだよ。


 僕は言葉を呑み込み王都付近では馬車に乗らない事を誓った。



 新人発掘コンテストさんの最終選考に残ってます。読んでいただいている皆様のおかげです。応援よろしくお願いします。<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ