欲しいけど要らない(後編)
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「マリアさん、ちょっといいですか?」
僕は身近な常識人で思い浮かんだ、家の隣のレストラン『みみずくの横ばい亭』の女主人のマリアさんに相談する事にした。ちょうど、マリアさんは店の裏の休憩所で座って休んでいた。
「何かしら、ザップさん?」
マリアさんは立ち上がる。辺りに他の人はいないので、マリアさんには座ってもらい、事のあらましを話した。マリアさんは頷きながら、話の腰を折る事無く聞いてくれた。これが大人の女性なんだな。周りの女子達は、すぐにツッコミを入れてくるので話が進まない事が多い。
「はぁ、ダメね、ザップさん。それって買って欲しいって事よ」
話終わると、マリアさんは溜息まじりに僕をジト目で見た。
「え、ならなんで、素直に欲しいっていわないんだろ?」
「そりゃ、結構高価なものだったんでしょ、普通、遠慮してしまうわ」
「むぅ、そういうものなのか……」
「そういうものよ。しかも、あんまり格好にこだわらないマイさんが立ち止まったんでしょ、それだけで、そのネックレスはとっても魅力的だったんだと思うわ」
「そうですね、そういえば、この前パーティーに出席した時も、アクセサリー系は全て借りたものだったし、もしかしたら、マイはその時から装飾品が欲しかったのかもしれないですね」
「なら、あとはする事は1つでしょ」
「はい、ありがとうございます」
僕は頭を下げると王都へと急いだ。
件のジュエリーショップに着くと前回同様カップルでごった返している。なんでこんなに多いのだろうか?
マイが見つめていたネックレスは有難い事にまだ売れていなかった。もし、もう売れていたら買った人を探して言い値で譲って貰おうかと思ってたところだ。
店員さんを呼んでネックレスを購入する。うう、かなり貧乏になっちまった。けど、マイにはかなり世話になってるからな。安いものだ。
そのネックレスは、店員さん言うには、正確にはペンダントネックレスと言うらしく、真ん中にある大きめな宝石がついているところはペンダントトップと言うそうだ。ペンダントとネックレスの違いが分からないので店員さんに聞いてみたら、真ん中になんかぶら下がってるのがペンダント、ひも状なものや、全部が一体化してるのがネックレスと言うらしい。なんかいまいち解ったような、解らないような……
けど、個人的にはチェーンとかだけのネックレスより、なんかついてるペンダントの方が格好よさげに思える。なんか紐だけだと、具材がないスープみたいで寂しい。貧乏性かなぁ?
そんなこんなで、ネックレスをゲットして意気揚々と帰宅する。
けど、どうやってマイにプレゼントしよう。やっぱ、サプライズだよな。
マイが寝てるところに忍び込んで枕元にそっと置く。それは無理だな。マイに気付かれずに忍び込む自信が無い。なら、マイが部屋に居ないうちに枕の下に隠す事にしよう。マイ達がお風呂に入っているうちに実行した。
「ザップ、ありがとう」
次の日の朝、マイは僕の買ったネックレスをつけて、僕の部屋に駆け込んで来た。
「え、どうしたんですか?」
いつもは炬燵から出ない、ドラゴン娘アンも僕の部屋にやって来る。
「ザップから、少し早いクリスマスプレゼントを貰ったのよ」
マイはペンダントトップを持ち上げる。
うっ、クリスマス!
「え、ご主人様、私のプレゼントはないのですか?」
「そ、そりゃあ、クリスマスにはまだ早いだろ」
苦しく言い逃れる。
「えっ、クリスマスプレゼントですかー?」
いつの間にか、幼女導師ジブルもやって来る。なぜコイツらこんな時だけ勘がいい?
「クリスマスが近いから、要らないって言ったのに、ありがとう、ザップ」
このマイの笑顔が見られただけで報われる。
けど、要らないってそういう意味だったのか。クリスマスプレゼントに買って欲しいって事だったのか。
焦りすぎた。こりゃクリスマスにもなんかプレゼントしないといけない流れだな。やべぇ、稼がないと……
ジュエリーショップにお客さんが多かったのもそのせいか。
寂しい人生を送って来た僕にはクリスマス=プレゼントという事に考えがいたらなかった……