闇の中
「うおっ!」
僕のお尻に痛みがはしる。くそっ、柔らかい所ばっか狙ってきやがる。まあ、当然ではあるが。
振り返りざま腕を振るうが、空を斬るのみ。敵は堅実に一撃離脱を徹底している。ところで、敵は何なのだろうか?
臭いからゴブリン、コボルト、オークとかだと思われるが、解らない。その理由は辺りに全く光が無いからだ。何も見えない。
「うがっ!」
次は狙われたのは目だ。目を瞑っているのでまぶたでなんとか止まり、痛みを感じた瞬間に体を引いて難を逃れた。
「はうっ!」
次は男の勲章に鈍器っぽい一撃がっ……
なんとか身を引いたけど、痛い、お腹の底が上がってくるような痛みに襲われる。
「くっ、くっそー!」
怒りで痛みを吹っ飛ばそうとするが、次はまたお尻に刺すような痛みが……
僕は自分の浅はかさを呪う。当たり前だが、やっぱ迷宮に入る時は鎧が必需品だ。今日も冒険を舐めくさって普段着だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕が今いるのは、『ベルベインの墓所』と呼ばれる、王都のそばにある探索し尽くされた迷宮だ。そこは地下一層のみの迷宮で、たまに迷い込んだ魔物が出るだけで安全とされている。駆け出し冒険者が訓練とかに使っているような所だ。
なぜそんな所に来ているかと言うと、たまたま迷宮の石材を再加工のために剥いでいたら新しい場所が見つかったとの話を聞いて、押っ取り刀で駆けつけた。迷宮の新エリアには、たまにすっごいお宝があったりするからだ。それにベルベインだし、なんとかなるだろうと思って、マイとアンと突入した。果たして一番乗りで、新エリアをサクサク進んで行った。
そして見つけた宝箱部屋。小部屋の中央に宝箱がある。なんかデジャヴを感じながら箱に近づくと、パカッと床が割れた。
「ザップー!」
「ご主人様ーっ!」
マイとアンの声を聞きながら、僕は奈落に吸い込まれて行った。なんか、昔、追放された時の事を思い出した。
シュタッ!
僕は華麗に両手と左膝を付き着地する。んー、だいたい2階層くらいかな? 悲しい事に、落下のプロである僕は着地の衝撃でだいたいの距離が解る。
辺りは完全な暗闇だ。収納から松明を出そうとするが、働かない。げっ、もしかしてダークゾーンってやつか?
ダークゾーンとは、意地悪な迷宮にたまに設置されている罠の一種で、真っ暗で魔法やスキルが一切使えない空間の事だ。どっかにそれを発生させる魔道具があり、それを破壊したら解除出来る。
ヒュン!
風を切る音と共に背中にチクリと感じる。矢か? けど、そんなチンケな攻撃じゃ僕は怪我すらしない。
しばらく闇の中でチクチク攻撃を受け続け、相手は急所狙いに切り替えてきた。
むー、埒があかん。さすがにこれは不味い。僕は急所を手で覆う。右手で両目を覆い、左手で股間からお尻をカバーする。かっこ悪いけど、闇の中だ。誰も見てるはずが無い。僕は闇の中攻撃され続ける。
敵は気配を殺して近づいてくるが、攻撃の瞬間だけ踏み込む音が微かにするのに気付く。音と空気の振動を頼りになんとか初めてかわすのに成功した。
「よっしゃー!」
つい声が出る。
かわす事は出来たけど、両手が塞がってるので攻撃は出来ない。けど、もう少し慣れるまではガードははずしたくない。
攻撃、避ける、攻撃、避ける、攻撃、避ける。
よし、よし、いい感じだ。僕は体をくねらせ踊るように攻撃をかわす。
よし、見切った! そろそろ、反撃の時間だっ!
「ザップー、何時まで遊んでるの?」
えっ、マイの声?
「年末の余興の練習ですか? けど、気持ち悪いですよ」
ん、アンも?
恐る恐るガードを解き目を開くと、僕を取り囲むゴブリン10匹ほどと、松明をもってるマイとアン。
「え、どゆこと?」
とりあえず、ゴブリン達を殴りとばす。
「ダークゾーンの装置、切ったわよ」
マイが汚いものを見る目で僕をみている。
「いつから見てたの?」
「ご主人様が『よっしゃー!』と気合を入れたとこからです。キレッキレなダンスでしたね。少し、なんていうか、ハードゲイの方みたいでしたけど……」
アンの目も汚物を見るそれだ……
そうか、目を塞いでいたのと、攻撃を避けるのに夢中で気付かなかったのか……
目と股間を押さえたセクシャルなたこ踊りを、マイとアンに一部始終まるっと鑑賞されてたのか……
無様、無様すぎる……
僕は顔が熱くなるのを感じ、この場から走って逃げたいのを必死に堪えた。
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