第六十二話 荷物持ち騎士を迎撃する
敵の数が多すぎる。僕1人では突破されるだろう。やむなしだ。食費は後で経費で王子にたかろう。
「アン! ドラゴン解禁だ! けど、殺すなよ」
「了解ですー。ご主人様」
アンの声がした瞬間、僕は背中を押され前方にふっとばされる。
あいつめ、全く配慮無く変身したな。もう少し間合いってものを考えて欲しいものだ。僕は転倒したが、すぐに立ち上がる。
一瞬にして、巨大なドラゴンが騎士達の前に立ち塞がる。
慣性でなのか、それとも怯まなかったのか、数人の騎士はランスでドラゴンに突撃する。けど、乾いた硬い音がしただけでダメージを与えられたようには見えない。
「グォオオオオオオオオオン!」
アンは口を大きく開け叫ぶ。これは威嚇だな。聴いた者が少し竦むくらいでショック死しない、優しさにあふれたやつだ。何回もアンの咆哮を聞いてきたので、少しづつ咆哮について解るようになってきた。
それでも全ての軍馬は恐慌状態で制御不能になり、騎士たちは程なく全員落馬した。ランスを捨てて幾人かは剣を抜く。
ドラゴンがいるというのに怯えずに大したものだ。さすが騎士だ。
僕達の立ち位置が解らない以上、騎士たちを殺すのは避けたい。あり得ないとは思うけど、ポルト達がお尋ね者という可能性もある。それに、騎士たちはただ命令に従ってるだけかもしれない。
僕は加減してハンマーをふるい騎士たちの武器をはじき飛ばしていく。ゴブリンと戦うのとは違い、頭を潰して終了という訳にはいかないので、かったるい。
次々襲いかかってくる騎士たちを軽く蹴飛ばしたり、武器をはじき飛ばしたりする。おかしい。誰ひとり一言も言葉を発さない。
もう十分時間稼ぎ出来たと思うので、離脱する事にする。
「アン! 叫べ! ショック死しないで気を失うくらいのやつをいけ!」
「グォオオオオオオオオオッ!」
辺りを割れんばかりの大音響が包み込む。空気が激しく振動してるのを肌で感じる。恐慌状態、または動かなくなって、もはや立ってる騎士はいない。
「ポルトたちの所に行くぞ」
残心しながら、馬車の向かった方へ走って行く。
「ご主人様、人っ子1人、馬1匹たりとも殺してないですよ」
「ああ、よくやった」
アンが人間形態になって合流する。本当にそう思う。不用意に騎士を殺してお尋ね者にはなりたくはない。
「あたしも褒めて褒めてーっ」
振り返ると、マイは魔法使いの女性を小脇に抱えている。手足がだらんとしてるので、気絶させたのだろう。
「ああ、ありがとう。マイもよくやった。アン、ポルトたちの馬車は見えるか?」
「ぎりぎり見えますよ、まだ疾走してるみたいですので、加速しますよ」
アンが先頭に出て走る速度を上げる。
「待って、あたしは荷物もってるんだから」
そういいながらも、マイは僕の前に出る。
少しづつ僕と2人との間が開いてくる。やばい、もしかしてこの3人の中では、僕が一番足が遅いのでは……
収納にハンマーをしまい、必死で走る。なんとか追いつくことが出来た。武器が重かったせいだと思おう。
しばらくして、僕達は馬車に追いついた。