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 角ウサギを狩りまくれ!(後編)


 よくよく自分の攻撃手段を考えてみる。


 通常時はハンマーによる近接戦。ハンマーだとウサギがミンチになるので、素手でいく事も考えるが、あまり芳しくない。他のみんなとは、かなり狩猟数に差をつけられているからチマチマ1羽づつ狩っていたら追いつけない。


「グルララララッ!」


 近くからなんかの叫び声が聞こえる。なんか鳥の鳴き声が野太くなったような感じだ。そっちの方からなんかを叩いたような音や木々がへし折れるような音が聞こえる。アンがドラゴンになったのか? いや、さっきの叫び声はアンより甲高かった。ドラゴンアンの声はもっと低く、もっとお馬鹿っぽい。

 取り敢えず、その音の方に行ってみる。




「ヒャッハー、死ね死ねウサギ共ーっ!」


 そこには化け物がいた。でっかいトカゲから沢山の長い首が生えていて、その首の1つには目の離れたトカゲ顔の少女が生えている。

 導師ジブル第二形態、ヒドラフュージョンバージョンだ。奴はスケルトン変化の次にいつもペットで連れている小ヒドラと合体して訳の解らない生き物になれるようになっている。戦闘能力はピカ一ではあるが……


「ザップ、私の雄姿を見に来たのですねっ!」


 あいつの感性はおかしい。どうも爬虫類系がラブリーや格好よく見えてるみたいだ。


 しゅごーーーっ


 ヒドラ首の1つが毒を吐きウサギを仕留める。えげつね。それにジブルは魔法の収納のアドバンススキルの収納ポータルを飛ばして死骸を回収する。飛んでるポータルは2つ。さすが導師、器用だ。ヒドラ首がウサギを狩り、ジブルが回収するというコンボか。

 僕を見たら逃げ出すウサギ達がジブルには立ち向かっていくのは納得いかない。絶対あの怪物より僕の方が無害に見えると思うのだが。

 けど、時間の問題だろう。面白そうなのでしばらく眺めるか。


「ふふっ、私がパーティーで最弱だったのは過去の話。トップになったら、みんなに私の事はジブル様と呼ばせるわ」


 残念ながら、最弱は揺るがないと思うぞ。

 ジブルを囲むヒドラ首達は群れ寄るウサギ達をブレスや首を叩きつけて退治していく。ジブルが収納ポータルでそれを回収していくのだが、それより先にヒドラ首達の口の中にウサギ達は呑み込まれていく。


「あんた達、食べないの! 後でいっぱい美味しいものを奢りで食べられるんだから、生ウサギなんか食べないの!」


 1つのヒドラ首がジブルをじっと見つめる。


 ぺえっ!


 そのヒドラ首がジブルに毒ブレスと言うか毒つばを吐きかける。


「うえっ。ぺっ、ぺっ。あんた何してんの、所詮畜生、やっぱり体に覚えさせないといけないみたいねっ!」


 ジブルはどろりとした液体を顔から拭って、そのヒドラ首に近づく。そしてしがみついて噛みつく。そのジブルに違う首が噛みつく。噛みついた首にまたジブルがしがみついて噛みつく。そのジブルにまた違う首が噛みつく。その噛みついた首にまたジブルがしがみついて噛みつく。ああ、不毛だ。無限ループだな。やっぱり制御出来てなかったのだな。

 これでジブル脱落だろう。巻き添えは勘弁して欲しいので、そっと僕はこの場を離れた。



 次に出会ったのは、ドラゴン娘アンだ。今日は暖かいから運動不足解消のために参加している。それでもまるで雪だるまみたいに着膨れている。赤い半纏はんてんにストライプ柄の角当て、その姿で木々を駆け抜ける姿は新手の妖怪にしか見えない。

 ウサギを追い詰め、近づいて殴る。そして収納に入れる。なんかめっちゃ堅実な方法をとっている。つまんねーな。


「おい、アン、今日はドラゴンはなしか?」


「あ、ご主人様。そりゃあそうですよ、こんな寒い中、裸は勘弁して欲しいですよ」


 夏は幻の服だけで全裸で闊歩していたのによく言うものだ。まあ、けど、それもそうだな。ドラゴン用の服とか正直どれだけの布が必要かわかんないしな。けど、服を着たドラゴンは見てみたい気もする。

 けど、見事に着膨れているな。良く燃えそうだな。


「ファイヤーボルトっ!」


 僕の手から放たれた七色のファイヤーボルトがアンに降り注ぐ。僕のファイヤーボルトは観賞用で、着火くらいにしか使えない。


「何するんですかー! 怒りますよ!」


 アンはファイヤーボルトを上手くよけて声を張る。


「いやー、良く燃えるかと思ってな」


「狩りが上手くいかないからって人の邪魔しないで下さい!」


 うわ、珍しくアンが真面目だ。あ、そうか飯がかかってるからか。いかん、遊んでる場合ではない。なんとか最下位脱出しないと間違いなく全財産吐き出してしまう事になる。


「じゃ、頑張れよ」


「ご主人様も頑張って下さいね。ごっはん、ごっはん」


 アン鼻歌交じりには新たなウサギを求め消えて行った。




「あ、ザップ」


 ウサギが逃げる方に向かいながらハントしてたら、マイに遭遇した。その手には大きなデスサイズ。

 ウサギが見えたと思った瞬間、マイは駆け寄りその首を刎ねる。うわ、早っ。精密な攻撃、それはマイの得意分野だ。僕にはウサギは的としては小さすぎる。


「どう、ザップ、いい感じ?」


「いや、全く上手くいかん」


「そうよね、ザップは雑魚狩り向けじゃないからね。ザップの代わりにあたしが頑張るから任せて!」


「ああ……」


 マイは木々の間に消えていく。なんかいいこと言われた感じだけど、負けたら大散財なんだよな。よく、考えろ。ピンチはチャンス、かな。


『絶剣マウント・スレイヤー』、30メートルくらいある、その刀身で辺り一帯ウサギごと更地にする。これは無しだな。はげ山しないためにウサギを狩るのに、僕がはげ山にしたら本末転倒だ。

 あと手持ちの強力な武器と言えば、勇者の剣と瘴気のハンマーか。

 勇者の剣は、好きなものを切れるという能力だから今回は役にたたないな。

 瘴気のハンマーは、瘴気を撒き散らすのと、攻撃した相手を下痢にするというカスでゲスな能力なので、ほぼ倉庫番だ。

 ん、瘴気? 瘴気ってウサギに効果あるのか?


『お久しぶりでございます。ご主人様』


 僕は収納から瘴気のハンマーを出して、目の前に掲げる。


「ああ、久しぶりだな。最近はお前たちあんまり話しかけてこないな?」


『それはですね、我々、収納の中から管理者の方々の視界で辺りを見られるようになったので、他の方々の生活を見守っているのですよ』


 えっ、それって覗き放題?


『まあ、もっとも、管理者の方の許可は必要なんですけどね』


 なんか心を読まれたみたいで気まずい。けど、コイツら僕の場合は見放題なのになんか複雑だ。


「それで、その瘴気ってのは、ウサギに触れるとどうなるのか?」


『多分、ショック死すると思いますよ』


 え、まじか? 


「どんくらい出せるのか?」


『そうですね、ご主人様なら多分結構出せると思いますよ』


 まあ、試してみるか。


「おおっ!」


 ハンマーから黒い靄が溢れでる。地面を這うように広がり、最終的には半径10メートルくらいは広がったと思われる。


「人には無害なのか?」


『闇の眷族には無害ですけど、一般人なら若干弱る程度です』


「そうか、これで逆転出来そうだな」


 僕は黒い靄を引き連れて木々の間を走る。倒れたウサギを収納に入れながら。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ザップ、卑怯よっ!」


 マイはウサギの首を刈って収納に入れる。


 討伐数は、さっき見たところ、ジブルが82羽で最下位、アンが85羽、僕が98羽、マイが丁度100羽だ。数があまり延びなかったのは、単純にウサギが減ってきたからだろう。

 山の端に夕日がかかり、あと少しで沈む。




「しゃあっ!」


 僕のハンマーから放たれた瘴気がウサギを2羽包み込む。やった、マイと並んだ。

 ピョコンと1羽、ウサギが藪から跳び出してくる。キョロキョロして僕とマイを見る。マイの鎌からはとろーりと血が落ちる。ウサギは僕の方に跳びかかってくる。


 勝った!


 なんか人としても勝った気がする。まあ、今のマイはどっから見ても返り血で悪鬼羅刹だからな。まあ、僕は瘴気のお陰で綺麗なものだ。


 瘴気に包まれたウサギを収納にしまう。


 日が落ちてゲームセットだ。





「それでは、結果発表ーっ」


 マイが嬉しそうに声を張る。ん、負けたのに元気だな。

 ここは開けた所で、ウサギは10羽ずつ集めてカウントした。なんか、沢山のウサギの死骸を見ていると少し心が痛む。特にジブルの狩ったウサギを見ると、ボロボロで心が痛む。それよりも、マイの狩った全て首を落とされているウサギを見ると、心が痛むというより、少し寒気がする。


「アンちゃん92羽、ジブル94羽、ザップ101羽、そしてあたしは……」


 マイは藪の中に手を突っ込み2羽のウサギを取り出す。


「102羽でーす。最初に2羽、この藪に隠してたのよ。という訳で優勝はマイちゃんでーす」


「わ、私が最下位……」


 ここまで落ち込んでいるアンは初めてみたような。


 そして、アンの奢りで僕らは美味しい食事をいただき、マイの望みを叶える事になった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「綺麗な星ね……」


 僕とマイは肩を並べて星を見ている。マイの希望で僕らは山奥の露天風呂に来ている。さすがに裸は勘弁してもらってみんな水着を着ている。


「マイさん、あれはオリオン座ですよ。その下にはウサギ座があります。昔、ウサギが大発生した事があって、狩りの神様のオリオンの下に星座を作ったそうです。ウサギの大発生を鎮めて貰うためにですね」


「そうなのか……」


「ザップ、ウサギ、可哀相だったわね」


 マイが潤んだ瞳で僕を見る。


 え、首チョンパしまくってましたよね。という言葉を呑み込む。


「けど、山が荒れ地になったら、あいつらも生きていけなくなっただろう」


「そうね……」


 なんか気まずい静寂が辺りを支配する。


「あっち見て下さい、北極星の回りには竜座というのがあるんですよ、どれかはわからないですけど」


 僕らはアンが指した方を見る。


 一筋の流れ星が。


「綺麗……」


 マイが呟く。


 僕たちは星空を眺めながらしばらく温泉を楽しんだ。


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