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 紙が無い! (後編)


「さて、どうするか?」


 僕は独りごちる。困った時に声を出すと、なんか客観的に見る事が出来て冷静になれる気がする。


 まず思いついたのは、収納スキルのオプションのスマホで誰かを呼んで紙を持ってきてもらう。多分マイはキッチンでアンは炬燵こたつ。幼女導師ジブルは今日は休みと言ってたが、奴も炬燵の住民と化している。誰に連絡しても喜んで紙を持ってきてくれるだろう。

 けど、これは無しだな。ブツの受け渡しの時にどうしても扉を開ける事になるし、その時に変な臭いがしたら嫌だし、何かの弾みで見られたりしたらなんとなく恥ずかしい。

 残る方法は1つ。トイレを出て少し歩いた所にある生活用品が置いてある棚まで歩いていくしかない。僕の収納スキルの弱点は見えてるものしか収納出来ない事だ。扉を開けて棚ごと収納する事も考えたけど、棚は家に固定してあるので、しくじったら家ごと収納に入れかねない。そうなったら間違いなく袋叩きだ。


 意を決し、お尻丸出しで空気椅子状態でトイレの扉を開く。危ねー、カギしてなかったし。誰かさっきの集中状態の時に来たら不幸な事故が起きる所だった。空気椅子状態のまま前に進む。む、これは苦行だ。足がぷるぷるする。極度のがに股歩きだな。


 ん、がに股!?


 がに股の『がに』とは確か『かに』の事。『かに』といえば横ばい。そうか、この体勢なら横ばいの方が歩き易いはず。僕は身を横にして歩き始める。正解だ。かなり歩きやすくなった。

 けど、もし、今、この姿を人に見られたらどうしよう。ズボンとパンツをずり下げてお尻丸出しでかに歩きしている僕はどこからどう見ても変態、変質者だろう。

 大丈夫、今は誰も来ないはずだ。何事もなかったかのように事は終わるだろう。


「何してんだ? おめー?」


 だっ誰だっ!この甲高い声は猫のモフちゃん! 振り返ると後に猫影が……


「にゃー! へ、へんたいーーーー!」


 み、見られたっ。人生で1番見られたくない姿を……


「ま、待てっ! これには訳がっ!」


 完全に失念していてた。最近はモフちゃんが家に入り浸っている事を……


「へ、変態っ?」


 キッチンの方からマイの声。


「モフちゃんですかっ!」


 アンの部屋の方からも声が。


 ヤバイ。これはヤバイ。人が駆け寄って来る足音がする。どうする? このままじゃ晒し者だ。変態確定で、更に家での僕の序列が低くなりそうだ。


 穿くか? パンツを?


 それは無しだ。


 お尻拭いてない状態でパンツを穿く?


 それじゃ猿人間と呼ばれていた、野人状態に逆戻りだ。理知的な人間としてそれは無理だ。


 ならばっ!


「頼むっ、モフちゃん、俺を猫にしてくれっ!」


「まあ、いいが、貸し1つだかんな」


 モフちゃんに魔力的なものが集まっていくのを感じる。


「世界よ、もふもふに包まれよ!『猫の世界ニャンニャン・ワールド』」


 モフちゃんから放たれた光が弾けて僕を包み込む。『猫の世界』、世界の名を冠する最強魔法。その力は世界を変革すると言う。モフちゃんの魔法は光に触れたあらゆる者を猫にするという、反則的なものだ。


 ふわさっ


 僕は服の中から這い出る。


「にゃーん!」


 取り敢えず鳴いてみる。


「ザップ猫!」


「ご主人様!」


 マイとアンが現れる。間一髪だった……


「きゃーっ! ザップ猫、げっとぉ!」


 走って来た幼女導師ジブルが僕にダイブしてくる。早っ、かわせない。


「もーふ、もふもふもふもふもふ」


 ジブルは僕をハグして顔を埋めてくる。猫になって解る。過度なモフは気持ち悪いな。僕は自分が猫に嫌われる訳が解った気がする。


「おい、ジブル、ザップ、う○こしたばかりだぞ」


 モフちゃんが、僕達のそばに来る。


「えっ……」


 ジブルの力が緩んだ隙に、その手から逃れて着地する。


「そう言えば、なんか臭いような……」


 さすがマイ。鼻がいいな。


「という事は、ご主人様、もしかして……」


 さすがアン、こういう事に関しては勘がいいな。


「お風呂に、入ってくるにゃー」


 僕は出来るだけ高い声をあげ、お風呂に向かった。なんとか窮地を脱することは出来た。今後は収納のトイレットペーパーを決してきらさない事を強く心に誓った。


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