魔道拳(前編)
「魔道拳!」
エルフのデルの合わせた手のひらから、雪のように真っ白な大きな手が発生して、10メートルほど前に飛んでって消え去る。
なんじゃそりゃ!
羨ましい、羨ましすぎる。
格好いい、格好良すぎる!
なんとしても僕もマスターしたい!
今日はデル先生の格闘技講座。デルたっての希望で暖かい日を選び、いつメン全員集合だ。僕、マイ、ドラゴンの化身アン、マッスル黒エルフのレリーフに、子供族のパムだ。新しく身に付けた技を披露したいと言っていた。
開けた荒野で、久し振りの風が無いポカポカ陽気の中、いつも通り僕らは道着を着ている。ドラゴンの化身アンだけはこの中でも寒いのか、半纏を上から羽織って、角当てを付けている。
そこで、デル先生の新技が公開された。
右足を後ろに引き、両手を両手首を付けて腰だめに構え、そこに光が収束し、それを突き出した。そして先程の『魔道拳』というものが放たれた。
しばらく誰も口を開かない。新技とか言うからまた、えげつない関節技かと思ったらなんと、飛び道具とは……
けど、実験台にされなかったので少し嬉しい。
「で、デル、それなんなの?」
マイも興奮している。僕ら攻撃魔法を持たない者にとって、投擲具に変わる遠距離攻撃はぜひとも、喉から手が出まくる程欲しい。けど、喉から手が出まくったら、かなりのホラーだな。そんな事考えてたら、デル先生は薄い胸を張って口を開く。
「これは、『魔道拳』。体内にある、何らかのエネルギーを集めて放出する事が出来るようになったわ。しかも威力はパンチ数発分以上はあると思われるわ」
なんかざっくりとした説明だな。
「威力、試してないのか?」
僕は話ながら墓穴を掘った事を確信した。
「やっぱり、ここは最強の荷物持ち様に受けてもらいましょうよ」
「なっ、パム、何言ってやがる。レリーフでいいだろ」
「私如きでは、デル様のお相手はまだまだ務まりませんよ」
レリーフはデルに対しては絶対忠誠を誓っている。デルはレリーフの師だ。彼にどういう教育をしたのだろうか。
マイ、アン、デルが僕をキラキラした目で見ている。まぁ、そうなる事は予測してたが。デル言うにはデルのパンチ数発分らしいから問題ないだろう。
「かかってこいやー!」
僕はデルの前に両腕をクロスして構える。ん、けどなんか負けフラグの香りがする。
「では、いきます! 『魔道拳!』」
デルが溜めて突き出した手から、白い巨大な手の形をしたものが放たれる。僕はガッチガチなクロスガードでそれを受けようとする。いやな予感しかしない……