玉子、玉子、玉子!
なんとか今日に間に合いました。
「どうやって食べる?」
マイが僕に問いかける。僕達の目の前には山のように積み上げられた鶏の卵がある。それを僕、マイ、導師ジブル、ドラゴン娘アンがじっと見つめている。この玉子の山は導師ジブルが仕事帰りに買ってきたものだ。いくら安かったからといっても買いすぎだろうと思う。
それを袋に入れて慎重に運んできたらしく、今日は帰りが遅かった。導師って頭が良くないとなれないものじゃないのか?
けど、多少困る。玉子は僕の魔法の収納に入らないのだ。調理したものや、ゆで卵は入るけど、生卵はだめだ。多分生きているからだろう。だからジブルは持って運んできた訳だ。
「マイに任せるよ」
食べ物に関しては、ほぼマイが調理するから任せた方が無難だ。
「じゃあ、半分は茹でて収納するわね。後の卵はしばらくおかずの一品にするわね。今日は何がいい?」
何がいいと言われても、マイと出会うまでは僕が食べた事のあるのはゆで卵のみだったから何も思い浮かばない。田舎の方なら食べる機会もあったのかもしれないが、妹と暮らしていた時は廃村で採集生活だったし、そのあとは王都や帝都で貧乏生活をしてたから卵を口にする事は無かった。
パリポリパリポリッ
うわ、アンが卵に手を伸ばしたかと思ったらそのまま食べやがった。
「うーん、あんまり美味しくないですね」
「当たり前だ。味しないだろ。それに、殻、気持ち悪くないのか?」
「えっ、知らないんですか? 卵の殻って角や骨や牙を作る栄養になるんですよ、ご主人様もそのままいってみませんか?」
「そうなのか?」
「待って下さい」
ジブルが会話に割り込んで来る。
「確かに、卵の殻にはそのような栄養があると言われています。けど、そのまま食べられるのは、2人のような選ばれた者だけです。普通は雨水とかと一緒で1回火を通さないとお腹を壊します。か弱い私とかは一発ですね」
なんか持ち上げられてるのか、けなされてるのか分からないが、そのまま食べない方がいいという事か。
「と言うわけで、殻はアンさんに任せるとして、私たちは中身を頂きましょう。目玉焼き、ポーチドエッグ、卵焼き、茶碗蒸し。何にしますか?」
ムムッ、僕が知ってるのは目玉焼きと卵焼きしか無い。
「じゃ、新鮮だから目玉焼きにしましょう」
マイの一声で目玉焼きに確定した。他のも食べてみたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「う、美味い、美味いぞーっ!」
僕はつい叫んでしまった。今日のご飯はハンバーグ。その上に目玉焼きが乗っている。デミソースがかかったハンバーグを目玉焼きごとナイフで切って口に運ぶ。白身と一緒に食べたらデミソースの味だったけど、半熟の黄身と一緒に食べると、その味が更に濃厚になって、より僕好みの味になった。
「うわ、マイさんの目玉焼き、マジ美味いですね」
幼女導師も絶賛だ。
「そう、ありがとう」
因みにドラゴン娘は無言でがっついている。
「マイ、マジ美味い」
「ご主人様、また駄洒落ですか?」
ドラゴン娘がツッコんでくる。前にもあったような。テジャブか?
「違うわ。たまたまだ」
「卵なだけにたまたまですか?」
う、ドツボだ。
「まあ、あれだ。おかわり欲しいな」
「いいわよ!」
マイは微笑むとキッチンに向かった。
それからしばらく、うちでは目玉焼きが流行した。