ドライアード
「綺麗だな。とっても……」
つい、言葉が口をつく。
僕は1人街道を歩いている。討伐系の依頼を軽くこなして換金して、王都からホームタウンに帰ってる所だ。いつもは魔王リナの作ったワープポータルをつかってショートカットしてるのだが、たまには気分転換に走って来た。
僕の最速の、収納に空気を出し入れして抵抗をへらす『荷物持ち走り』で、馬車などを抜き去りながら街道を駆け抜けた。寒い時走ると、いい感じに気持ちいい。運動不足解消のためにしばらく走るのもいいかもな。
そして荒れ地から木々の生えた所にさしかかり、しばらく自然を堪能するために歩く事にした。
目の前の小高い丘の頂上に1本の大きな黄金色の木。風が吹く度に、その木から黄金色の葉が舞い散る。それが日に照らされて、まるでこの世のものでは無いくらいに綺麗だ。
良かった歩いていて……
走っていたら目には止まらなかったかもしれない。
その木は多分、銀杏。近くに寄らないとわからないけど、黄色く紅葉する木を僕は銀杏以外知らない。銀杏といえば『ぎんなん』。銀杏の実の中の種みたいな所は食べられて、僕も何度か口にしたことがある。けど、銀杏の実って臭いんだよな。まるで、動物の死骸のような臭いがする。あと、ぎんなんは好きな人はとっても好きで、王都では拾ってる人をよく見る。余談だけど、夜に暗い道の中で拾っていて、急ぎの馬車に轢かれるって事故が多いので、王都では夜間のぎんなん拾いは禁止されている。それでも拾う者はいる。
少し街道を外れて、そこに向かってみる事にする。少し強い一陣の風が舞い木が黄金吹雪に包まれる。
「…………!」
僕は一瞬息を飲む。その木の根元に1人の女性が現れた。腰まで伸びた黄金色の髪の毛に黄色いワンピース、まるでエルフのデルのような美貌に服を着てても解る強弱のついた体。ドストライクだ。まるで、女神や妖精みたいだ。
僕はふらふらと近づいて行く。この寒空の中、あの薄着。多分妖精だ。木の妖精ドライアードかもしれない。
風向きが変わり、僕に落ち葉が向かってくる。
「うっ!」
つい声が出る。なんだこの臭い? ぎんなん、ぎんなんなのか?
ヤバイ臭いが僕に襲いかかる。なんか涙が出て来る。口の中に苦みが広がった気がする。いき過ぎた悪臭って味がするんだな。よく見ると木の根元には沢山の実みたいなものが見える。あれ全部ぎんなんなのか? 一瞬収穫しようと思ったが、頭に怒ったマイの顔が浮かぶ。こんなくっさいもの、持って帰ったら間違いなく怒られるな……下手したら夕飯抜きだ。
ドライアードと僕は目が合う。けど、なんかイラッとした。お前、臭すぎだろ……
僕は踵を返し走り去った。どんな綺麗な景色でも臭いとダメだな……