第六十一話 荷物持ち襲撃される
「なんかですね、馬に乗って鎧着た人達がきてますよ」
ドラゴンの化身アンが右手で顔にひさしをつくりながら僕に言った。
馬に鎧、騎士だろうか?
「アン、どこにどれくらいいる?」
「道の遠くの方に、んー、10人以上はいます。こっちに向かって全力疾走してますよ」
僕も目を凝らすが何も見えない。
「ポルト、こっちに騎士が10人以上近づいてるみたいだぞ、どうする?」
「あまり関わりたくない、みんな荷台に乗ってくれ、道から離れる。お前らはどうする? ここで別れるか?」
ポルトは明らかに焦って冒険者たちを荷台に乗せる。
僕はマイとアンの方を見る。2人とも頷く。
「ついて行く。戦力は多いに越したことないだろう」
「護衛としてあたしたちを雇わない?」
マイが僕の前に出る。護衛するなら報酬を貰っても問題ないだろう。なんとなく、ポルトは金持ちそうだしな。
「いいだろう。護衛を頼む。出来高制でいいか?」
出来高制って事は、いっぱい襲われたらいっぱいお金を貰えるって事か?
「任せる」
交渉成立だ。という事は、襲われる可能性が高いんだろう。騎士たちは敵かもしれないって事か?
「馬車に乗れ、いくぞ!」
ポルトが馬車から身を乗り出す。
「大丈夫だ。走る」
僕の言葉を皮切りに、馬車は疾走し始め、僕達はその後ろを遅れずに走りついていく。
「おいおい、お前ら本当に人間か?」
ポルトが僕たちの走る速度に驚いて見てる。
「何言ってやがる。無駄口たたく暇あるならもっととばせ!」
けど、馬車と馬の限界なのだろう。馬車は跳ねたりしながら激しくガタガタゆれている。大丈夫なのか、壊れたりしないのか?
今はもう街道を疾走してる騎士が見える。銀色の全身鎧が光を跳ね返している。20騎はいるみたいだ。
「もしかして、ゴブリン討伐にきたんじゃないの?」
マイが走りながら息も切らさず口を開く。
「どうだろうな」
ポルトの表情からして、誰かに狙われているのだろう。
「王子ごめんなさい!」
そう言うなり、馬車の荷台から、名前は忘れたが、魔法使いと言ってた女性が飛び降りる。
ん、王子?!
女性は懐からなんか出して、地面に投げつける。そこから光が溢れ、大量の煙が空に舞い上がる。魔法の狼煙か?
騎士たちはこちらに進路変更する。砂煙を巻き上げ近づいてくる。そうか内通者がいたという訳か。
こちらも急いでいるのだが、いかんせん馬車で普通の馬だ。対してあちらは軍馬、少しづつお互いの距離が縮まってくる。
「王子! どうするんだ!」
僕は大声を出す。
「追いつかれるか……迎えうつ!」
ポルトが叫ぶ。貴族だとは思ったが、こいつは王子だったのか。迎撃は愚策だ、蹂躙される。
「駄目だ! 走り抜けろ! 俺が足止めして後で合流する」
「ザップ! フェルトが……」
ポルトが叫ぶ。フェルト、女魔法使いの事か?
「マイ! 頼んだ。女魔法使いを連れてこい」
「了解!」
マイが走り去る。
騎士たちが砂煙と蹄鉄で地を叩く音を立てながら迫り来る。手にはランスを持っている。問答無用か。
僕はハンマーを収納から出して立ち塞がった。