荷物持ちの妹来る(終)
「…………ッ!」
あたしは空気の揺らぎを感じ咄嗟に後ろに下がる。一瞬何かが顔の前を通りすぎたけど、すぐに消える。多分ティタの手だ。あたしの左頬を狙ったのだろう。危ない、危ない。
「よくかわせたわね」
ティタの声がする。右前方からだわ。あたしは動線を確保するために部屋の家具をザップの収納にしまう。
「あなたも収納スキル持ちなのね。珍しいわね」
あたしの後ろから声がする。いつの間に移動を? 全く気配も何もしなかった。
「さあ、どうかしら?」
少しでも時間を稼ごうと、曖昧に答える。どうにかして時間を稼ぎたい。
これは奥の手だけど、あたしは1つの『世界魔法』を不完全ながら使う事が出来る。妖精ミネアが使う全ての魔法とスキルを打ち消す絶対魔法『マテリアル・ワールド』、それをあたしは必死に習った。ミネアの魔法は光が直進して弾けて効果を発揮するが、あたしの力ではそれは出来なかった。けど、光を手のひらに集める事までは奇跡的に出来るようになった。あたしの光る手のひらは触れたもののスキル、魔法効果を少しの時間だけ打ち消す効果があった。『バニシング・パーム(仮)』と名付けている。けど、不便な事に発動するのには集中の時間が必要だったりする。
ヒュン!
出現した手のひらを前に出てかわす。やっぱりダメか。すり抜けてティタの体は捕まえられない。
「えー、なんでかわせるの? 見えた瞬間にかわしているの? 化け物なの? あり得ないわ……」
ティタはそう言うけど、正直ギリギリだ。これを続けていたらいつかは命中する。
ぼふっ!
あたしは収納の中から小麦粉の袋を出して辺りに激しく振り撒く。
「何してるの? 粉で私を見つけようとしたの? 残念でした。それじゃわかんないわよ」
「え、そうなの? それじゃ、どうすれば……」
けど、こうなるのは想定内。思った通りティタは襲いかかってこない。多分何かしら物があるところには出現出来ないのだろう。あたしの欲しいのは時間。右手に力を蓄える。
粉が地面に落ちていく。あたしも粉まみれだわ。これは後でお風呂入らないと。
充填完了。
あたしは最速で動くために全身の力を抜く。
「これで終わりよっ!」
ティタの声がする。これはフェイント、後ろから攻撃がくるはず。あたしは振り返る。
シュッ!
甘い。まだまだ甘すぎる。
あたしはかわしながらティタの手を掴む。
「バニシング・パーム!」
あたしの手の光がティタの手に吸いこまれていく。
「きゃっ!」
あたしの前に現れた裸のティタ。
チェックメイト。
ぺちん!
あたしの手が軽くティタの頬を触る。
「え……」
ティタは呆然としている。
「あたしの勝ちね」
あたしは収納から出したマントをティタにかけてあげる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで、なんでザップを連れて行きたいの?」
あたし達は部屋を掃除してコーヒーを飲んでいる。部屋に撒いた粉は収納に入れたけど、あたしは若干粉まみれだ。
「だって、私のスキルって強力だけど、裸になっちゃうから恥ずかしくて使えないから……
けど、お兄ちゃんがいたら、いつでも服、出して貰えるし……」
ん、何言ってるのだろう。
「あ、そっか、ティタはザップのスキル貸し出せるって事知らないわよね」
「え……」
ティタの目が輝く。収納スキルが欲しいのだわ。ティタに収納スキルがあれば、ほぼ無敵だと思うしね。
「おっ、良かった。仲良くなったみたいだな」
ザップがリビングに入ってくる。
「「仲良くないわ!」」
あたしとティタの声がハモる。
ザップは素振りから帰って来たのね。あ、妹ちゃんにかかりっきりで、素振りに参加出来なかったわ。
あたしはザップに頼んで妹ちゃんをザップの魔法の収納の管理者登録して貰う。
「ありがとう。お兄ちゃん。だーいすき!」
ザップに抱きつこうとするティタをあたしは必死で止めた。油断も隙もない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃ、また長期休暇の時に来るわね。またね、マイ姉様!」
乗合馬車に乗ったザップ妹にあたしたちは手を振る。本当に嵐のような女の子だった。正直疲れた。けど、お姉様って事はあたしの事を認めてくれたのかな?