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 姫と筋肉 筋肉と盗賊


「ヒャッハー。ここは通さないぜ!」


 モヒカンの男が刃が逆に反ったククリナイフを舐めながら僕達の前に立ち塞がる。逆の刃先でも舐めて舌を切ればいいのに。


 ここは森の中を走る街道で、見通しが悪いのでよく盗賊に襲撃されると言われている所だ。だから普通の人は余り利用しない。主に軍用の街道だ。けど、僕らは微塵も気にしない。


 それにしても大丈夫かコイツ? 目ん玉ついてるのだろうか?


 僕達の前にモヒカンの男を中心に十数名のゴロツキの集団が現れた。盗賊だ。かなり頭の悪い盗賊だ。汚い身なりにショボい装備。外れだ。お金持ってなさそうだな。

 僕だけの時に遅いかかってくるのは、まあ納得できる。けど、僕の隣には化け物がいる。正真正銘完全無欠な化け物だ。

 もう寒くなってきたのにタンクトップにショートパンツで、銀髪にとんがった耳、体は多分人間種の限界まで鍛えあげられた筋肉に覆われている。

 王都ナンバーワンの冒険者パーティー『地獄の愚者フール・オン・ザ・ヘル』の一員、自称死霊魔術師ネクロマンサーのレリーフだ。変態さんでは多分ない。

 かつてはダークエルフだったらしいけど、今では誰も信じない。2メートルを超える身長に筋肉体マッスルボディ鬼人オーガ半鬼人ハーフオーガ、はたや巨人族ジャイアントと間違えられる。

 盗賊君達は、そんな生き物がいるのによく声をかけてきたものだ。僕なら間違い無く見なかった事にする。


 ちなみに、ぼくの名前はラパン・グロー。冒険者だ。いつもは『みみずくの横ばい亭』というお店でウェイトレスをしている。

 たまたま依頼に行った村でレリーフに遭遇し一緒に王都に帰っている所だ。レリーフってボッチ率高いな。嫌われてるのか?あ、そう言えば僕も最近ソロが多い気が……ブーメランか?……


 どうしょっかなー? と迷っていると、レリーフが前に出る。まあ、僕なら盗賊程度楽勝だけど、割のいい依頼のお陰で懐が温かいので、レリーフに任せてもいいかなって思ってしまった。失敗だった。


「ここは通さないとはどういう事だ?」


 レリーフは紳士だ。ちゃんと盗賊相手にも会話する。僕なら問答無用で滅殺なのに。


「おいおい、でくの坊、オツムはついてるのか? 通りたいなら出すもの出せって言ってんだよ」


 オツムついてないのは、君たちの方だよ。僕は場を乱さないように静かに心ツッコミをする。


「そうか……」


 レリーフはタンクトップを脱ぎ、その凶悪な上半身をさらけ出す。大胸筋がピクピクしてる。キモっ。


 盗賊達からどよめきが漏れる。


「出したぞ。これでいいのか? そんなに筋肉が見たいなら早く言え。減るもんじゃないので心ゆくまで見せてやる。思う存分目に焼き付けろ」


 挑発なのかボケなのかジャッジが難しい所だけど、間違いなく盗賊達のSAN値を削っている。ちなみにSAN値とは最近王都で流行った言葉で、正気度という意味らしい。これが削られたら狂気に陥ると言う。


「お、おい、だれが筋肉を出せと言った? か、金だよ金を出せ! ここは俺たちの道だ通行料をよこせって言ってんだよ!」


「そうか、金か」


 チーン


「うおっとっと……」


 モヒカンはレリーフが指で弾いたものを掴む。


「だっ大金貨!」


 モヒカンは目を剥く。レリーフ、お金持ちだな。


 こりゃダメだ……


「なに、盗賊に施してんだよ!」


「ん、盗賊? どこにいるのだ? 物乞いの間違いじゃないのか?」


「レリーフ、こいつらは盗賊だっ!」


「そうだ、俺達は盗賊だ!」


 モヒカンが会話に加わってくる。


「そんな訳ないだろ。盗賊とはもっと筋肉がついてるものだ。そんな貧弱な体で盗賊が務まる訳ないだろ。見得をはるな。つくならもっとマシな嘘をつけ」


 レリーフはモヒカンを憐れみの目で見ている。


「くそっ、そんな目で見るな。俺達は盗賊だ。持ってる金を根こそぎ出しやがれ!」


 盗賊達は武器を抜く。


「そうか、そうだよな。大金貨一枚だけじゃ食ってくのに足りないよな。深淵より来たれ、我が忠実なしもべよ!」


 レリーフが印を組み、僕の知らない呪文を唱える。僕は魔法は得意だけど、死霊魔術ネクロマンシーだけは専門外だ。


「出でよ! ゴールデンスケルトン!」


 地上に光る巨大な魔方陣が現れて、常人が耐えられないような瘴気が溢れ出す。そこから巨大な2メートル以上はある金色の骸骨が這い上がってくる。キンキラで目が痛い。


『我が名は【アメリドト】死霊の王の1柱なり……』


 巨大な金色のスケルトンから声? みたいなものが聞こえる。ヤバイ、間違い無くヤバイ奴だ。


「これが私の全財産だ。お前達どれだけ欲しいのか?」


 当然答える者は誰1人いない。みんな仲良く気絶している。


 僕は嫌な予感がして、遠視の魔法で巨大な金色のスケルトンを観察する。大金貨だ、大金貨を潰してくっつけてスケルトンは出来ている。よく見ると骨の表面には貨幣の模様がついている。あいつは大金貨で出来ているのか……


「お金を粗末にするなっ!」


「あぐっ!」


 僕のドロップキックがレリーフの頭に炸裂した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お金、運ぶの重いじゃないか……この前宿代を小指で払わせたけど、何も言われなかったぞ……」


 声に力が無い。少しはレリーフは反省してるみたいだな。


「それは、宿の人がびびってたんだよ」


 どうも話からレリーフは全財産をスケルトンにして異界に保存してて、支払いの度に召喚してるらしい。バカなのか?


 因みに盗賊達には、レリーフが袋いっぱいの豆を与えて地図のようなものを与えていた。最後まで盗賊認定して貰えてなかった。みんな仲良くマッスルになるんだろうな……


 もう、2度とレリーフとはつるまない。そう強く誓いながら街道を歩いて王都に向かった。


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最強の荷物持ちの追放からはじまるハーレムライフ ~
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