肉・寿司食いねぇ!
「へい、らっしゃい」
家に帰ってリビングに入ると、マイから威勢のいい挨拶が飛んできた。
マイの格好は白い道着のような前で閉じる東方の服に、胸元には分厚い包帯みたいなものを巻いた下着、『さらし』が覗いていて、頭には白いはちまきが巻かれている。
あ、これは先日のピオンの寿司職人さんスタイルだ。前回のピオンも似合っていたが、マイも当然似合っている。気をつけないと、ついつい開いた胸元の『さらし』に目が吸いこまれてしまう。あれって解けたりしないのだろうか?
部屋も前回同様改造されていて、カウンターにスツールになっている。マイはカウンターの中で、あとのみんなはスツールに座っている。僕の帰りに気付いて、みんな振り返る。
アン、見た目幼女の導師ジブル、立ち上がった大きなホルスタイン柄の猫人モフちゃんだ。
「お帰り、ザップ。お疲れさま。まあ、まずは座って」
なんか気圧されて、僕は突っ立ったままだった。
「ああ」
僕はスツールに腰掛ける。
「まずは、冷えたエールをどうぞ」
温かい『おしぼり』という布を差し出されて手を拭うと、小さめのグラスがカウンターに並べられ、それにマイが瓶のエールを注いでいく。
「「「かんぱーい」」」
僕らは軽くグラスをぶつけエールを口にする。くーっ、五臓六腑に染み渡る。おっさんみたいだな。ん、なんかいつものより飲みやすい。
「あ、これは帝都で1番人気の『ハードドライ』ですね」
ジブル説明ありがとう。
「へぇー、これが帝都のエールか」
僕はグラスの中の液体をまじまじと見る。なんかいつもよりシュワシュワが多い気がする。という事は、誰か帝都に行ったのか? 帝都と言えば学園にいる妹は元気だろうか?
「王国では、味の濃いコクのあるエールが人気だけど、帝国では辛口で炭酸の強いエールをキンキンに冷やして飲むのが人気なのよ」
幼女が酒について熱く語っている。なんか背徳的だ。もしかしてジブルは実は子供族じゃなくてドワーフなのでは? 酔っぱらったの見た事ないし、いつも酒飲んでる気がする。
「準備してる間、これでもつまんでて」
マイから僕らの前に小鉢料理が差し出される。もう完璧に使えるようになった箸でついばむ。薄い味の煮物だ。このエールにとても合う。
マイは僕達に背を向け、七輪みたいなのでお肉を焼いている。そして、お肉を表裏軽く焼いたのを皿に並べるとこっちを向いて右手で桶に用意していたシャリ左手に肉を持って、両手が重なったと思ったら右手を僕の前のカウンターに差し出し、そこには寿司が出現していた。この前、僕達が教えて貰った寿司の作り方とは違う。ピオンと同様な握り方だ。さすがマイ、器用だ。どんだけ練習したのだろうか?
そして、僕らの前に寿司が2個、いや、2貫置かれる。ジブル言うには寿司1貫と言うと、1個を指すこともあれば2個を指す事もあるそうだ。お店や地域で違うらしい紛らわしい事だ。
「「「いただきます」」」
僕達の前に出された炙った肉の乗った寿司に醤油をつけて口にする。
美味い。口の中で蕩ける。まるでこの前の大トロみたいだ。どっちが上かは優劣つけがたい。けど、魚の寿司には無かった、どっしりと食べた感がある。
「マイ、すげぇーな。美味い、美味すぎる!」
「ありがとう。焼き方はブルーレアで、お肉は牛のバラ肉の1番美味しい所よ。いまからどんどん握るわ」
もう一つ口にする。お肉は表面だけ焼いたほぼ生に近いものだけど、甘みがあって口のなかで、文字通りとろける。
それから僕達は、美味しい肉寿司を心ゆくまで楽しんだ。