寿司食いねぇ(2)
「つぎは、これだ」
僕達が食べ終わったら、即座にピオンはまた1人2つづつ寿司を握って置いていく。ご飯と魚を取ったと思ったら、楕円形の米の上に魚が乗った寿司ができあがる。すげぇな、何やってるのか全く解らない。
つぎは白身の魚だ。しかも生だ。
「これって、このまま食べられるのか?昔、母さんが生の魚は中るって言ってたのだが……」
僕は寿司をまじまじと見つめる。
「え、何言ってるのザップ。ザップは迷宮で散々生の犬肉食べまくってたんでしょ?」
マイがジト目で僕を見る。
「失敬な。あの時はほかに食べるものが無かったし、最初は毎日腹下していた」
「そうなのね。けど今は大丈夫でしょ、昔ザップのスキル鑑定したとき、悪食と毒耐性ってのがあったわ」
「まじか……」
なんか毒耐性は置いとくとして、悪食ってのは格好良くないスキルだな。なんかゲテモノしか食べない人みたいだ。
「それに生で食べられるのは新鮮な海の魚よ」
導師ジブルはそう言うと、寿司をひよいっと掴んで醤油につけて頬張る。
「ううん、美味しい!海の生き物は真水で洗うとお腹を壊す毒みたいなものが無くなるのよ。だからみんなと違ってお腹が弱い私でも安心して食べられるわ」
僕は騙された気持ちで、寿司を口にする。
うん、旨い。淡泊な白身魚の甘みさえ感じる味に、なんというかツンと辛いアクセントがついている。ツーンときて涙目になる。けど、これは悪くない。
「これは、なんなんだ?」
「鯛という魚」
「この辛いやつは?」
「わさび」
「ううっ!ひゃあああーっ……」
マイが泣きながら目頭を押さえている。そして、お水を一気飲みする。
「ああーっ。死ぬかと思ったわ。前に食べた事のあるお寿司のワサビってこんなに辛くなかったのに」
「私のは特製だ。出す前にまた練ってやると粉ワサビは辛くなる。次からサビ抜きがいいか?」
「うーん、別添えでお願い」
「え、そんなに辛いですか?私的にはもっと多い方がいいんですけど」
やはりアンは鈍感だ。僕ですら結構きたのに、奴は無傷だ。
「ピオン、次はアンのはワサビメガ盛りでたのむ」
それにしても、ジブルもモフちゃんもケロッとしてる。モフちゃんは置いとくとして、まあ、ジブルも半分以上人外だから鈍感なのだろう。
んー。なんか物足りないと思ったらお酒が無いんだ。
「マイ、寿司ってお酒に合うんじやないか?」
僕の飲酒の可否はマイが握っている。
「そうね、お酒、合いそうね。今日はいいわよ。少しだけね」
「そう言うと思って、お酒も用意してるでゴザル」
ピオンがドヤ顔で、小さな花瓶みたいなものを出す。そしてカウンターに小さな磁器のようなコップを置いていく。1口で飲めるくらいしか入らないのではないだろうか。それに花瓶のようなものからトクトクと音を立てて湯気の立つ液体を注いでいく。
「私の国の酒だ。熱燗と言う」
ピオンもちゃっかりと自分のコップを持っている。そういえば、忍者語がいつの間にか消えている。つっこむべきだろうか?
「うわっ。あったまるー」
マイを見ると、頬かほんのりピンクに染まっている。僕も口にする。うん、飲みやすい。スッと体に入ってくる。スッキリしていて仄かに甘みを感じる。初めて飲むものだ。
「これは、ライスワインですね。お米で作ったお酒ですね」
ジブルの蘊蓄炸裂。ジブルもほんのり赤くなっている。
「これは地元では米酒と呼んでる。エールも合うけど、エールは腹が膨れる」
今日のピオンは饒舌だ。さっきお酒を飲んだからか?
そしてまたピオンは寿司を握り始める。