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 中落ち肉


「マイ、この肉はなんなんだ?やたら旨いな」


 僕らは今、家の隣の『みみずくの横ばい亭』で、焼き肉なうだ。

 報酬が高く難易度が低い討伐依頼を果たしたおかげで少し裕福、それで少し贅沢に焼き肉だ。


「ん、それは中落ちよ」


 すげーな。焼いた肉を見てその部位が解るのか。どんだけ肉食マニアなんだ。


「ところで、『中落ち』ってなんだ?おい、アン肉を飲むな!噛め!噛め!」


 僕は大事なお肉様を丸呑みしている、ドラゴン娘をたしなめる。文明人として味わう事は大切だ。


「私が説明するわ」


 見た目幼女の導師ジブルが食事を中断する。その足下には足の生えた蛇がいる。レストランに動物を連れてくるのは止めて欲しいものだ。


「中落ちっていうのは、話の途中で最後のオチの前に軽いジャブみたいなオチを放つ、そのオチのことよ」


 ジブルが人差し指を立てて解説する。おしゃまさんな近所の女の子みたいだ。


「そうか!そんなんだな。さすが導師様、物知りなんだなー」


 僕は棒読みで答える。


「んな訳あろかい。肉、肉の話してんだよ。しかも微塵も面白くないわ」


「くー、結構いい感じだと思ったのに。これじゃザップと同じだわ」


「おい、しれっと人をディスるな。俺は面白さなんて求めて無いからいいんだ」


「ごめんごめん、本当は中落ちっていうのは、中で果てて落ちちゃう事よ」


 なんか、ジブルの言ってる事にいかがわしい香りを感じる。


「おい、それって昼食時に、衆人環視の中で大声で言えるか?因みにマイもいるぞ?」


 マイが目に光が無い笑顔でジブルを見る。


「ごめんなさいっ!」


 ジブルは頭を下げると、また焼き肉の世界に帰って行った。2度と戻って来なくていい。


「中落ちっていうのはね……」


 やっとマイから答えを聞ける。


「カジノのスロットゲームの3つ並んだボタンの真ん中から押す事よ」


 マイが笑顔で僕を見る。使え、頭を使え。滅多にないマイのボケだ。ここで上手く拾わないと、2度とマイはボケる事は無くなるだろう。


 きたっ!


「マイ、それは『中押し』だろ。今は肉の話だろう」


「へへっ。間違えちゃった」


 マイは軽く舌をだす。ほぼ人類の全ての者がすると、あざとさで殺意が湧く行為だが、マイにはそれが許される。うん、可愛い!


 ん、という事は、マイは王都のカジノに行った事あるのか。僕は前のパーティーの時に何度か引きずっていかれた事がある。あれは嫌だったな。いつも負けて勇者アレフが荒れまくってたからな。


「中落ちっていうのは、本当はね、肋骨の間のお肉の事よ。骨に近いから美味しいの。けど、筋や脂が多いから細かい隠し包丁が入っている事が多いわ」


 マイはトングで掴んだ肉の表裏を僕に見せる。本当だ。細かい切れ込みが入っている。


 ぱくん!


 その肉をドラゴン娘が口に入れて咀嚼して呑み込む。


「アンちゃん、生はだめーっ!」


 マイの声が響き渡り、回りのお客さん全ての目が僕達のテーブルに集まる。

 マイは赤くなって縮こまる。


「マイさん、生がダメならどうして欲しいのですか?」


 ジブルがマイに近づいて耳元で囁いている。


 ぐわーん!


「天誅!」


 僕が収納から出した金だらいがジブルの頭に落ちる。ジブルは頭を押さえて縮こまる。コレいいな、音だけであんまり痛く無さそうだし。


 という訳で、中落ちは旨い。


 けど、牛一頭から5キロくらいしか取れないし、傷みやすいからどこのお店でもあったり無かったりが多いそうだ。


 うん、また見かけたら頂く事にしよう!


 

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