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 姫と筋肉 筋肉inレストラン


「ラパン。ラパン・グローはいるか?」


 地の底から聞こえるような低い声が店内を震わせる。店内にいる全ての視線がその人物に集まる。『みみずくの横ばい亭』の入り口に立つその人物の影が店内を覆ったかのように錯覚する程の巨漢。

 銀髪を短く刈り上げ、浅黒い肌に尖った耳。けど、全ての特徴を消し去ってしまうのがその体格。

 まるで、僕のウエストくらいはあるようなはち切れんばかりの二の腕、服の上からも中央が割れて凹んでいるあり得ないくらいの大胸筋。

 丸まった亀でものっけているような膨れた肩。

 タンクトップ越しにも綺麗に確認できるシックスパックの腹筋。ズボンの上からも発達した太股とふくらはぎが確認できる。


 筋肉。


 それしか言葉が浮かばない。なんか前に会った時よりさらにでっかくなった気がする。彼は何処にむかっているのだろうか?なんてレストランに不釣り合いなんだろうか……


「オーガ……」


「オーガだ……」


 店内の誰かが呟く。


「すまないが、私はオーガではない。正真正銘、見ての通りのダークエルフだ」


 丁寧な口調で訂正してるが、誰も納得してないだろう。まず、エルフは種族的に太りにくく筋肉がつきにくいといわれている。僕はいままで幾度となくエルフを見てきてはいるが、マッスルなのは彼だけだ。

 とりあえず、僕を探しているみたいだから行ってみる事にするか……


 僕の名前はラパン・グロー。冒険者だ。いつもはここ『みみずくの横ばい亭』でウェイトレスをしていて、休みの日は冒険を楽しんでいる。今日はウェイトレスの仕事でメイド服に身を包み、やっとお昼のピークが終わって厨房の中で少し休憩していた所だ。


「いらっしゃいませ。レリーフさん」


「ああ、居たか、ラパン、実は……」


「レリーフさん、ここはレストラン。まずはお食事でもされませんか?」


「む、やけに今日は丁寧だな。わかった案内してくれ」


「はーい、お客様ご案内しまーす」


 僕は大きな声でレリーフを案内する。レリーフの体は光を遮りすぎるので、窓側の1番奥の席に案内する。

 椅子を引いて、レリーフを促す。


「なんか、貴族になったような気分だな」


 うちの店のモットーは、どんなお客様でも貴族になったようないい気分になってもらう事。元お姫様の僕や元大神官の下、日々精進してる。


 バキバキバキッ


 木の折れるような音と共に僕の視界が塗りつぶされる。


 ドドーン


 つ、潰される。何が起こった?僕は床と弾力のあるものに挟まれる。死ぬと思ったのは一瞬、僕は重さから解放される。椅子が壊れて倒れ込んで来たレリーフに潰されたみたいだ。多分、僕じゃなかったら骨くらい折れてたかもしれない。


「すまない、椅子を壊してしまった」


 起き上がったレリーフが僕に手を差し出している。なんだかんだでレリーフは紳士ではあるんだよな。


「ありがとう」


 僕はその手を取って立ち上がる。パンツ見えてないよな?


「ラパン、もっと強い椅子はないのか?」


「んー、思いあたらないよ」


 客席の椅子は頑丈だ。夜は酒場でたまに乱闘騒ぎが起きる事もあるのだけど、テーブルや椅子が飛び交ってもいままでそうそう壊れてない。


「ではしょうがないな。闇よ、闇より出でし者よ、幾星霜の時を超え……」


「ラパン、止めて、いけない、それはやばすぎる」


 シャリーちゃんが血相を変えて走って来る。


「え、何、何っ?」


 レリーフが呪文を唱え始めるが、生憎、彼の死霊魔法だけは専門外で何をしようとしてるのか解らない。


「それは、禁呪よ、かつて1つの町を滅亡させた死霊騎士王を呼び出すやつよ、あーあ、間に合わなかった……」


 そう言うとシャリーちゃんも呪文を唱え始める。


 床に魔方陣が光りながら生まれ、そしてそこに黒い靄が集まり蹲った人型を成す。


「マキシマム、ターンアンデッド!」


 シャリーちゃんの手から放たれた光が現れた人型を包み込む。


「ぬるいわ。小娘!」


 人型は立ち上がる。漆黒の甲冑を纏った高位のアンデッド。それは僕らを睥睨する。

 僕とシャリーちゃんはそれと対峙する。こいつは強い。そういえば、いつのまにか、もう1人いたウェイトレスのピオンは居なくなっている。危険を感じてザップハウスに応援を呼びに行ったのだろう。


「早く、椅子になれ」


 低いけど、この場にはそぐわない気の抜けた声がする。レリーフだ。


 危険を感じて忘れてかけていたが、そういえばレリーフが召喚したんだった。


「ははーっ。我が主よ」


 黒騎士は1度土下座すると、レリーフの後ろに回り膝を折る。いわゆる空気椅子ってやつだ。そしてそこにレリーフが座る。黒騎士は器用に空気椅子のまま前進し、何事も無かったかのようにレリーフは位置を整える。


「お前、まだまだ筋肉が足りんな。豆を食え豆を」


「ははーっ。もったいないお言葉。ありがとうございます」


 なんだ?


 なんなんだこれは?


 日常?日常なのか。自然すぎる。多分これは彼らにとっていつも繰り広げられてる事なのだろう……


「ラパーン。メニューはないのか?」


 メニューなんかあるか!ばかっ!


「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、お引き取りいただいてもよろしいですか?」


「な、何怒ってんだ?」


「怒るだろ!ばかっ!」


 僕はレリーフにコモンセンスについてしっかりとお説教してやった。

 

読んでいただきありがとうございます。


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