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 Tボーンステーキ(後編)


 柔らかい!


 僕が読んでた小説の、老いた主人公が歳をとって食べられなくなったと嘆いていたから、もっと固いものを想像していた。

 そうだこの味は、まごう事無きサーロインステーキの味。だけど、噛み締めた時の肉の旨味がグレードアップしている。

 僕はつぎは骨にくっついてる肉に噛みつく。筋などがあってコリコリはしているが噛みきれない固さではなく、口の中にしっかりとした旨味が広がる。

 マイとジブルはナイフとフォークで肉を切り分けながら口に運んでいる。アンは僕と同様ハンドでむしゃぶりついている。けど、それも悪かない。

 マイから警告は来ないので、Tボーンステーキはそのまま噛みつくのもマナー違反では無いのだろう。


「ゴリッ。ゴリゴリッ」


 アンの方から決してステーキを食べてる時に出るはずの無い音がする。アンの手にしているステーキの骨がT字からL字に変わっている。平常運転だな。骨ごといってやがる。もしかしたら体張ってボケてるだけかもしれないけど、誰ももはやつっこまない。通常、人はあんな固い骨を噛み砕けない。喉にでもつまらせたらいいよ。まあ、皿ごといかなかっただけマシか。


「なんかいつものサーロインステーキより美味しくないか?」


「うん、骨がついてた方が美味しいのよ」


 マイが顔を上げる。


 ジブルがナイフとフォークを置いて口を布巾で拭いて話し始める。


「人種の祖先は遙か昔、骨を割ってその中のものを食べてたって言われてます。その時の名残で、骨のそばの肉や、骨自体が美味しく感じると言われています。その証拠という訳ではありませんが、人種は動物の骨を煮込んだスープをおいしく感じるものです」


 ジブルがドヤる。なんかムカつくな。


「それで、オチは?」


「え、説明にオチなんて有るはずないでしょ」


「つまらんな、少しは捻れよ。お前、生徒にも面白く無いといわれてるだろ」


「う……」


 図星だったみたいだ。ジブルの表情が固まる。


「ボリ、ボリッ、骨、美味しいですよ。ドラゴンは昔から何でも丸ごと食べてきたから、骨を美味しく感じるんでしょうね」


 もう、既にアンのステーキは無くなってる。


「ジブル、今度授業にアン連れてけば、こいつは体張ってボケまくるぞ」


「そうですね!」


 ジブルの顔がぱっと明るくなる。悩みが簡単に解決して良かった。あとはジブルのツッコミ能力を強化するだけだ。


 少し話し込んでしまったので、次はサーロイン側の脂に噛みつく。脂が冷えて固まったら最悪だからな。


 うん、旨い!


 甘くてコクがあり、脂だから脂っぽいけど、確かに旨い。表面を上手く焦がしてあるのが旨味を増している。


「サーロインやリブロースの脂はあたしは牛の脂で一番美味しいと思うわ」


 マイが口を開く。


「ああ、そうだな。めっちゃ旨い」


「ありがと」


 少しマイが照れている。


 そして、次は小さい方の肉、ヒレに噛みつく。


 柔らかい。そして美味しい。今まで数度牛のヒレ肉は食べた事があるが、その時に感じた味の物足りなさを感じない。さっきマイが言ったように骨から旨味が出てるからだろう。

 それから僕は無心にむしゃぶりつき、気が付いたら後には肉が綺麗にこそげ落ちたT字の骨が残るのみとなった。喰うべきか?喰わざるべきか?

 僕の顎の力なら間違い無く食べられるはずだ。けど、マナー的にどうだろうか?

 止めとこう。アンじゃあるまいし。アンが僕の骨を物欲しそうに見ている。僕は骨の乗った皿をアンの方に押し出す。


「だめーっ!」


 マイが大声を出す。


「ん、マイ姉様、何でですか?」


「だって、その骨、ザップが口に入れたのよ、はしたないでしょ」


「…………そうですね、危なかったです。あと少しでドラゴンとしてのプライドを捨てる所でした」


 有るのか?プライド?


 しばらくマイが食べ終わるまで待って僕は口を開く。


「俺の読んでた小説の主人公が爺さんになってTボーンステーキがたべられないって嘆いてたんだが、これって柔らかいから爺さんでも食べられるんじゃないか?」


「そうね、ヒレとサーロインだから柔らかいから骨のそばの筋さえ切り分けれは老人でも食べられると思うわ。まあサーロインの脂はもたれるかもしれないけど。けどね、この肉は特別だから」


「特別?」


「この肉の牛はお肉を食べるために育てた牛だから全体的に柔らかいのよ。年取った牛とかだったらサーロインの方がもっと固いし、そう言うお肉の方が一般的よ」


 そうなのか。ではやっぱり年をとったらきついと言うことか。でもいい肉だったら問題ないって事か。


「ありがとうマイ」


「どういたしまして」


 Tボーンステーキはとっても美味しかった。やっぱり、みんなで食べたからって言うのもあるだろう。


 それから僕らはコーヒーを口にし、ステーキの余韻を楽しんだ。


 

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