河童
冬に向けてしっかりお金を稼ぐために、僕達は王都の冒険者ギルドに来ている。けどみんな考えている事は一緒なのだろう。めぼしい依頼がない。諦めてX依頼を見せて貰う。X依頼とは誰も引き受けてくれず塩漬け状態になってる依頼の総称だ。
「これなんていいんじゃないの?」
マイが選んだのは『河童討伐』というものだった。
「ん、『河童』って何だ?」
まさか伝承の生き物な訳は無いだろう。
「えっ、ご主人様、河童も知らないんですか?」
アンがわざとらしく驚いた振りをする。なんか腹立つ。
「知るかそんなもん。お前は知ってるのか?」
「はい、河童というのは、寿司の巻物の一種で、中に胡瓜を挟んだものです」
相変わらず食べ物にもってくな。
「それは『河童巻き』だろ。それをどうやって討伐するんだ?」
「ですよね。それでは頭の髪の毛が薄くなった人をディスる時にも河童っていいますよね?」
「そうだな、河童というあだ名の盗賊かなんかの討伐なのか?」
僕はマイを見る。
「んーん、本物の河童よ、東方のおとぎ話に出てくる」
「えっ、河童って実在するのか?」
「そうみたいね。東方からやって来たみたい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
と言うわけで、僕らは今、国の端にある河童が出る池に来ている。そこまで大きな池ではなく、人が立ち入らないようにグルリと柵が巡らされている。
僕は収納から出した胡瓜を水面に浮かべる。これが河童を呼ぶ合図だそうだ。
来る前に調べた所、河童は伝承の通りで、緑の体に亀のような甲羅を背負い、頭には皿があり、とっても力が強く相撲が好きだそうだ。あと、人のお尻から尻小玉というものを奪う能力があり、それをされたら無気力になると言う。
「多分、特殊スキルで、魂の1部を奪うものじゃないかしら?」
スマホで導師ジブルに聞いたら、そう言っていた。尻から魂を抜くってなんてゲスな能力だろう。
「なんだぁ、お前ら。俺様と戦いに来たのか?」
水からザパンと人影が現れる。右手に持った胡瓜を3口で消滅させる。河童、伝承通りの河童だ。イメージと違ったのはデカイ。2メートル位あるのでは?
「そうだ。お前を退治に来た」
こいつは何人も人を殺している。人語を解しても許す訳にはいかない。
「そっか、面白い。ルールは簡単だ相撲に勝った方が負けた方を好きに出来る。それでいいか?」
「ああ、異論はない!」
斯くして、僕と河童は相撲をとる事になった。大地に足の裏以外がついた方が負けというルールだ。
「では、スタート!」
アンが合図を出す。どうもマイは河童が気持ち悪いみたいで、近づいて来ない。
僕と河童は強烈なぶちかましのあとがっぷりと組み付く。河童と触れ合っている訳だけど、ヌルヌルしてて気持ち悪い。しかも掴みにくい。しかも河童の手が僕のお尻をまさぐる。気持ち悪すぎる。一端全力で押し返し距離をとる。
「そうか、そんなに尻小玉が欲しいか。かかってこい!」
僕は河童に尻を突き出して挑発する。
「お前は馬鹿か?望み通りお前の尻小玉を頂いてやる!」
僕は全神経をお尻に集中する。
河童の手が触れる。まだだ引き込め。
ここだぁーっ!
僕は全ての力をお尻に込めて河童の手を挟み込む。
ボギリッ!
「うごおおっ!」
河童の手が砕かれる感触がお尻を伝わり、河童はうめき声を上げる。
そして振り返り、中腰の河童の腰を掴み全力で跳び上がる。跳び上がりながら腰を引き上げ河童の頭を両足で挟み込む。ミシリッ。河童の頭蓋骨が悲鳴を上げる。
ドゴン!
そしてそのまま河童の頭は大地に突き刺さる。
パイルドライバー!
いつか誰かにかけたいと思っていたロマン技だ。けど、殺傷能力が高すぎていままで機会がなかった。
「完全勝利!」
僕は大地に突き刺さった河童を背に振り返る。
「ゲスの極みね……」
「河童より、ご主人様の方が凶悪です……」
けど、女子達の評価は最低だった。
パイルドライバーなのに……