第五十八話 荷物持ち恥ずかしがる
「おはよう、ザップ! 昨晩はすごかったわよ」
目を覚ますと背中の方からマイの声がする。頭がガンガンして痛い。あと、背中がとっても暖かい。またマイがくっついて来たんだな。体をゆっくり回す。そしてマイを引き剥がす。
「なにがすごかったんだ?」
「あたしの口からはとても言えないわ……」
自他共に認めるヘタレな僕なので大した事はしてないと思うが、お酒を口にしてからの記憶がないので、やっちまった感がある。何をしたって言われても反論出来ないな。
「おはようザップ! お前昨日はすごかったぞ! 俺もとってもいい気持ちになれたよ」
ポルトが起き上がる。爽やかな笑顔で気色の悪い事を言ってやがる。
「ああ、そうだな! とってもよかった。俺もお前のようになりたいぜ」
スキンヘッドの武闘家も身を起こした。
僕は昨晩何をしたんだ?
マイが恥ずかしがり、ポルトがいい気持ちになるような凄い事をして、武闘家のマッチョからは羨ましがられている。
僕は血の気がひく。
なんか、鬼畜の所業をしたのではないか? 聞くに聞けないな……
「ご主人様、昨日はそれはそれはすごかったですよ!」
ドラゴンの化身アンがテントから出て来た。マイ以外の女性陣はテントで寝てたみたいだ。アンは、さらに口を開く。
「涙ながらに追放された時の事を話し、エリクサーと私のブレスで迫り来る強敵たちを打ち倒し、そのあとマイ姉さんとのドラマチックな出会い。そして私との手に汗握る戦い! みんな手に汗握り聞き惚れましたよ。まるで英雄の冒険譚みたいでした。ご主人様に演技と物語りの才能があるとは思わなかったです」
なんと、そんな恥ずかしい事をしてたのか……
それよりも!
「え、全部話したの?」
「うん、全部聞いたわ。ザップ、大変だったのね、裏切られて捨てられて……ザップが強くなりたい訳が解ったわ」
マイは若干涙ぐんでる。
全員起き出して来た所で、僕は口を開く。
「昨日は迷惑をかけてすまない。その上で頼みが有るのだが、昨日俺が話した事は全て忘れて欲しい。頼むこの通りだ」
僕は深々と頭を下げる。
「頭を上げろよザップ、それくらいお安い御用だ。俺の名にかけて昨日の事は忘れてやるぜ。いいなみんな」
ポルトの言葉でみんな了解してくれた。
「いや、面白い話だったと思ったんだけどな。あと『ゴールデンウィンド』の、名前を変えて本にしたら売れると思うぜタイトルは『最強の荷物持ち~役立たずと勇者パーティーを追放されたけど収納スキルで開眼し無双します! パーティーに戻ってきてとたのまれても【もう遅い】です~』でどうだろう?」
ポルトはそばに来て僕の肩をたたく。
「なんか人気出なさそうな名前だな」
つい呟いてしまう。
「アンちゃんがドラゴンになるっていう設定もいいよな、けど、ダンジョンの最下層にエリクサーの泉があるっていうのと49層までっていうのが納得いかないな。エリクサーが使い放題なのにラスボスがドラゴン一匹っていうのはバランスが悪いと思うな」
ん、ポルト達は僕の話がフィクションだと勘違いしてるのか?
それは置いといて、確かにポルトの言うとおりだ。エリクサーの泉はバランスが悪い。あのダンジョンにはまだ何かがあるかもしれない。落ち着いたら行ってみよう。
僕達は、とりあえず食事の用意にとりかかった。