紅葉狩り 1
「ねぇ、ザップー、せっかく来たんだから色々見て回ろーよ」
マイが僕の袖口をクイクイ引く。マイは未だにショートパンツにシャツだ。寒く無いのだろうか?
「それもそだな。結構遠くまで来たからな」
僕達は今山奥にいる。馴染みの街で引き受けた山奥の山菜の運搬のクエストを受けたからだ。決して報酬がいいクエストでは無かったけど、他にはいいものが無かったのと、運搬系は人気が無いみたいで放置されてるので引き受けた。
そりゃそうだ。少ない報酬で大量の荷物をもって山から帰って来るって普通の人だったらかなりの拷問だ。まあ、もっとも僕に関して言えば荷物は魔法の収納に入るので、ただ行って帰ってくるちょっとしたジョギングのようなものだ。
今日は珍しくマイしかついてきていない。ドラゴンのアンは、改装した家の自室に設置する炬燵関係の買い物に行くって言っていたし、導師ジブルは仕事だ。
僕達は木造の変わった造りの建物の中で、目的の山菜をしこたま収納に入れてこれから帰ろうとしていたのだが、山菜を渡してくれた村長さんがここら辺の景色が良い所を教えてくれた。
丁度今は紅葉の季節で景色がとても美しく、王都からも観光客が訪れているそうだ。
余談ではあるがここの村長さん言うには、ここは昔東方から戦乱を逃れてやって来た貴族が作った村だという伝説があると言う。その証拠に家屋は木と茅という植物で作られた屋根で出来ていて、僕達には馴染みが無いものだ。この景色だけでも非日常でなんか良い感じだ。
「そうだた、まずはなんか食べるか」
僕はもう手仕事の雑務に精をだしている村長さんに声をかける。
「ここでは『山菜そば』って言うのをだしてるんですよね。2杯お願いします」
村長さんは快く引き受けると奥に消えて行った。村長さんなのになんでもしてるんだな。
僕達が居るところは多目的スペースみたいな所で、野菜や山菜の販売もしていれば雑貨も売っていて、土間に机と椅子が置いてある食事スペースもある。あと休憩所にもなっていて、ここから始まる遊歩道の入口でもあるらしい。
こういう田舎の雑多感はなんか懐かしく嫌いでは無い。
雑貨スペースにある動物の木彫りや、用途に困るタペストリーとかをマイと眺めていたら、テーブルに『そば』が運ばれて来たのでそこに付く。
正確には『山菜とろろそば』と言うものらしい。
「なんか土の香りがするね」
「ああ、そうだな」
湯気がたつ美味しそうなスープの匂いの中にほんのり温かい土のような香りがする。決して不快な匂いでは無い。むしろ好ましい。
薄茶色のスープの中には、薄茶色の麺が沈み、その上になんかの根っこや草の葉っぱみたいな山菜がのっており、上に白いトロッとしたものがかかっている。とろろって事は山芋をすりおろしたものだな。
「「いただきます」」
僕達は箸で麺を掬う。