姫と筋肉と筋肉(中編)
レリーフが暴走して話が長びきました。今から歯医者さんです。また、後で。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
「それで、何処でオーガを見たの?」
僕と少年は道縁に座っている。
「そこ……」
少年は物体を指差す。
「確かにコレはオーガみたいだけど、そんな可愛らしいモノでは無いから」
少年はコクコクと頷く。間違いなく気持ち悪さはオーガを軽くしのぐ
「僕の家の裏に小山……」
少年は怯えた瞳で僕に答える。物体の発する声が大きすぎて聞こえにくい。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
「君の家って、王都から近いんでしょ。王都の役人とかには言わなかったの?」
「子供の言うことだからって、信じてくれなくて……」
少年は物体を視界に入れないようにしながら口を開く。たまにビクンと体を震わせる。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
物体は大地に両腕をつき、汗をしたたらせながら鬼神のような形相で上下運動をしている。しかもさらに声が大きくなる。
「黙れレリーフ、せめて静かにしろ!少年が怯えてるやろがっ!」
いかん、つい、言葉が荒くなってしまった。一緒に暮らしている妖精の言葉がうつったみたいだ。
「まて、ラパン。くるっ!もうすぐくるっ!ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ!フッシューッ……」
レリーフはその場で転がり、天を仰ぐとどっからともなく出した青色の液体を横臥したまま口にする。若干口からこぼれているのがさらに気持ち悪い。
「シュッバッホーッ!ああ、最高だ。漲るっ!やはり昼は、ミドルポーションに限る」
『シュッバッホーッ』ってなんなのか気になるがこれ以上こじらせたくないので、無かった事にする。
「レリーフ、せめて大人しくできないの」
「まて、ラパン。愛の言葉は口にしないと伝わらないものだ。声をかけ愛でてやるとより筋肉は成長する。お前はきちんと大胸筋に名前をつけたか?」
「そんな事するわけないでしょ!」
「だから成長しないのだ」
「余計な御世話だ!」
くそレリーフ、軽く僕の胸をディスりやがった。僕はまだ成長期なんだよ。今度デルさんかザップに言いつけてやる。
「ちょっと、このままじゃ、いつになったら着くのか分からないよ。もう十分筋トレしたでしょ、とりあえず着くまで筋トレ止めようよ」
「それは無理だ。ラパン、お前は呼吸もすれば水も飲むし飯も食うだろう。筋肉にとって筋トレは呼吸であって、豆とポーションは食事だ。お前は筋肉に呼吸をするなと言ってるのか?」
「そんな事言ってるわけじゃないよ、もうレリーフの筋肉はとっても立派だよ。少しくらい愛情を減らしても問題ないんじゃないかな?」
少しレリーフ的な言い回をしてみる。これで少しは会話が噛み合うのでは?
「何を言っている。筋肉は愛。愛は無限だ!」
やっぱ、駄目だ。僕ではこいつをコントロール出来ない。ここに来るまでも何回も筋トレで移動を中断している。少年が口を開くようになるまで結構な時間を要した。頭痛いし、疲れて来た。レリーフを置いて少年と2人で行こう。そうしよう。
「要は移動速度が遅いのが問題なのだな」
レリーフがニヒルな顔で腕を組む。
「そうだけど……」
嫌な予感がする。
「深淵より来たりて、深淵に還れ、出でよジャイアントスケルトン!」
大地から巨大な骨の手が現れる。そして這い出るかのように巨大なスケルトンが現れた。当然少年は意識を失っている。