第五十七話 荷物持ち焚き火を囲む
焚き火だ。久しぶりの焚き火だ。すこしテンションが上がる。僕達はポルトに勧められるまま火のそばに座った。
パチン! パチン!
火の中で薪が爆ぜる。ポルトが棒でつついて薪を立てて火力を上げる。
僕達の斧焼き肉は、アンの吐いた炎で熱した専用斧の上に油をひいて肉を焼くという、風情に欠けるものだ。暖かいというよりも熱いものなので、焚き火の暖かい火は心に染みる。
「こちらが、俺たちの依頼主のガイルさんだ。旅の商人をされている。こっちは武闘家のチェーンと魔法使いのフェルトと神官のババだ」
武闘家はごついスキンヘッド、魔法使いは小柄な女性、神官はババァいや年配の女性だ。
僕達も軽く自己紹介する。
「ババさんはババァだからババなのですか?」
みんなが感じてたけど、言えなかった事をアンが口に出す。
「あのね、名前がババなのよ、ババァじゃないわまだ35才よ」
ババさんが額に青筋を立てながらやんわりという。35は嘘だろう……さば読んでるな。
「すまない、アンは長い間、人と接していなかったから配慮が足りないんだ」
僕は素直に頭を下げる。
「まあ気にすんな。酒だ、これでも飲め」
武闘家のチェーンが僕に金属の水筒を差し出す。
おお、酒だ、本当に久しぶりの酒だ。
「ありがとう。いただくよ」
僕はぐびっと飲み干す。やばい喉が焼ける。なんて強い酒なんだ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「てなかんじで、俺様は秒殺でドラゴンのアンにびびったゴブリンどもを叩き潰してやったわけよ! 俺様を泣いて讃える『ダンスマカブル』の連中には二度と悪さするなよって言って許してやって、あとは村に戻って村の連中に『報酬はお前らの笑顔だ』って言ってやって、貧しい者たちからは何も貰わずに来たって訳だ! 格好いいだろ! 最高だろ!」
俺様は『ゴールデンウィンド』から追放されてからの武勇伝を皆にしっかりと話してやった。
「マイさん、ザップ君って酒をのんだらいつもこうなのか?」
ポルトがマイに小声で話かけてる。
「ザップがお酒飲むの初めてみたからわかんないわ。ごめんなさい。今後は飲ませないようにするわ」
マイも小声で話している。こそこそしやがって気に食わんな。
「なにしてんだぁ? ポルト! 俺様のマイには手を出すなよ!」
ポルトの奴は女に見境なさそうだな。
「俺様のマイ! 俺様のマイ!」
マイが真っ赤になって固まってる。大丈夫か?
「ザップ君は、『ゴールデンウィンド』の荷物持ちだったのか、けど、面白い作り話だな、特にアンちゃんがドラゴンって言うのが面白いな」
ポルトの奴は今度はアンに近づいていく。
「おいポルト! 俺様のアンに手を出すなよ!」
「えー! まさかアンと同レベル……ザップのばかぁ!」
マイの手刀が俺様の首に刺さった。痛ぇ! やり過ぎだろ。
この後、ひよっこ冒険者どもに戦い方についてしっかりと教えてやった。