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 だるまたおし


「ザップさん、本気で思いっきり力を入れて下さい」


 デルは僕に棒を突き出す。デルの持ってる方の棒には車輪がついている。多分馬車の車輪で、車軸の片方にのみ車輪がついていて車輪の方をデルが持っている。


 今、僕達は道着で森の入り口にいる。デル先生の格闘技講座の野外実習だ。

 メンバーはいつメン。僕、マイ、アンにレリーフ、パムだ。

 ここまで走って来たので良い感じに体が暖まっている。


 僕はデルが差し出した車軸を掴む。


「皆さんもご存じの通り、ザップさんと私の腕力は天と地ほどの差があります。それでもこのようにザップさんは私を押さえる事が出来ないです」


 デルは両手で車輪を回し始める。なんか負けたくないので必死で両手で全力で車軸を押さえるが、抵抗虚しく車輪は回る。負けてたまるか!


「うおおおおーっ!」


 僕は全力で抗う。


 バシュッ!


 そんな気はしたが、車軸は折れ、僕の握ってた所は指の跡がついている。


 一瞬みんなが僕に注目する。けど、なに事も無かったかのようにデルが口を開く。


「これは輪軸りんじくと言いまして、井戸で水を汲む滑車や、船の舵輪だりんなどに使われているカラクリです。ザップさん来てください」


 デルは僕をみんなの方に向けてしゃがませる。


「さっきの車軸が首、車輪が頭です。もう、皆さん、何をするかわかりましたよね」


 僕の頭頂部と顎に優しく手がかかる。しかも後頭部に触れるか触れないかくらいで何かが触れる。多分デルの道着だと思うが少し頭をずらしたら幸せになれるのでは?

 顎に触れた手はヒンヤリしているが、ヤスリのようにざらざらしている。日々訓練に明け暮れる力士の手だ。野良仕事してるおっさんみたいに指で煙草の火ぐらい消せそうだ。

 その時まるで死神にでも撫でられたかのように背筋に悪寒が走る。


「やめーい!俺を殺す気か!」


 僕は即座に離れデルの方を向く。危なかったあと少しで首の骨をやられる所だった……


「大丈夫ですよ、ザップさんですし。すぐに治療しますし」


「そういう問題じゃない!傷みでショック死するわ!」


 デルは困った顔で小首をかしげる。美人さんの可愛らしい仕種に少し心が動くがそれだけは勘弁して欲しい。


「しょうが無いですね」


 そう言うとデルは収納から何か出すと地面に抜き手で穴を掘り、なにか実みたいなものを埋めた。にょきにょきと木が生えウッドゴーレムが現れる。そして、ウッドゴーレムはデルに背を向けて正座する。始めからこうしろよ。


「このように、顎と頭に手をかけて回します。私たちはこの技を『だるまたおし』と呼んでます」


 デルはゴーレム君の頭に手をかけて回す。


 ぶちりっ!


「あ……」


 デルの口から声が漏れる。『あ……』じゃねーだろ。もげてるぞ、ゴーレムの首。

 危ねー。あと少しで僕もああなる所だった。


「かわいそう……」


 首の無いゴーレムを見て、マイが呟く。


 デルは一生懸命、ゴーレムの首がくっつかないかエリクサーをかけながら試している。


「デル様、不肖レリーフにお任せ下さい」


 レリーフが渋い声を出しながらゴーレム君の前に立つ。


幽世かくりよにありし御霊よ、我が力もて顕現したまえ『死霊召喚コール・スピリット』」


 レリーフは筋肉を誇示するような印を組みながらしゅを口から吐く。その手から噴き出した闇の波動が形を成し、首の取れたゴーレムの前に透き通ったゴーレムが現れる。


「デル様、ゴーレムの霊を呼び出しました」


 レリーフはニヒルに笑う。そう言えばこいつは死霊術士ネクロマンサーだった。最近はネタになりかけてたけど、ちゃんと修業してるんだな。


『もっと……ご主人様の役に……たちたかった……』


 ゴーレムの霊は囁くと光の粒子になって消え去った。


「ううううぅ」


 デルは頭を抱えてうずくまる。


「ゴーレム、いい奴だったんだな。おいらが歌でおくってやるよ」


 パムがボーイソプラノで何かを讃える歌を歌い始める。まるで天使の声だ。


「では、私が火葬して差し上げます」


 ゴーレムの手を組ませて横たわらせて、アンがドラゴンブレスで燃やし尽くした。


 僕達は手を合わせてゴーレムの冥福を祈った。ん、何してたんだっけ?

 



読んでいただきありがとうございます。


 

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