ラビリンス
「うわっ面倒くさそう」
ドラゴンの化身アンは右手でひさしを作って辺りを見渡す。ここは太陽ないからひさしを作る意味ないけど、僕もなんとなく遠くを見るときにしてしまうジェスチャーだ。
僕らの眼前には迷路が広がっている。地下に広がった広大なスペースがあり、僕らは小高い丘みたいな所から前方を眺めている。碁盤の目のように規則正しく壁が並んでいてそれは複雑に入り組んで遙か奥まで続いている。辺りは光源の無い魔法の光に溢れていて、少し薄暗いけど遠くまで見通せる。ここは古代の遺跡で調査し尽くされていたのだけど、最奥に新しい墳墓が見つかったという噂で調査に来た所だ。
「これって巨大迷路ってやつね。なんか昔は王都とかにアトラクションであったけど、最近は全く見ないわね」
マイは身を乗り出して遠くを見ている。
「まあ、私は飛べますから楽勝ですね」
導師ジブルがロマンの無い事をさらっと言う。まだまだだな。
「私も壁を突き抜けて行ったら一直線ですね」
ドラゴン娘も何もわかってないな。
「お前ら、何言ってやがる。せっかくの迷路だ存分に愉しませてもらおうじゃないか。飛ぶ壊すは禁止だ。はい、マイ、ルール説明」
「あ、うん、じゃ今から迷路タイムトライアルです。飛ぶ壊す禁止でルールを破った人は今日のご飯は野菜尽くしです」
「まじすか!」
「はい、飛びません!」
アンとジブルは肉食だ。野菜も食べるけど、野菜のみだとこの世の終わりかのように凹む。肉抜きと言うのは彼女らに取って耐え難い苦痛だろう。
「けど、迷路に入って何が楽しいんですか?」
ジブルが穿った質問をする。
「そうだな、俺は巨大迷路初挑戦だから、それを知りたいと思う」
「そうよね、昔、流行ってたから、多分楽しいのよ、きっと……」
マイの言葉は尻つぼみだ。マイも迷路の何処に魅力があるか考えているのだろう。
「まぁ、知的遊戯である限り、私の優位は揺るぎませんね。妥当にゴールする順位は私、マイさん、アンさん、ザップの順番でしょうね」
「おい、ジブル、そんなに俺は頭悪いか?アンよりはマシだと思うぞ」
「ご主人様、私と張り合う必要はないですよ、こう見えても私は長い時を生きてきてます。経験、知識量。私に劣ってても恥じる事はないですよ」
「くそ、お前ら馬鹿にしやがって。絶対ぎゃふんと言わせてやる」
「「ぎゃふん!」」
ジブルとアンがハモる。くっそー馬鹿にしやがって。
すり減った階段を降りて、僕達は迷宮に突入した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「知的遊戯なんだろ、という事は、この中で賢いのは俺、マイ、アン、ジブルの順番って事だな。導師さん、どうしたのー?」
僕はダッシュで迷宮を駆け抜けた。僕は最近はこういうのが得意で1度通った道は頭に入る。それでも迷路は広く1時間くらいは抜けるのにかかった。進んだ先が突き当たりだった時の気分は最悪だった。ずっと走り続けて頭を使って、なんていうか疲れた。面白い要素はわからなかったが、1番でゴールしたという事が嬉しかった。誰か競う人がいないとこれは退屈極まりないものなのでは?
30分くらいして、マイがゴール。さらに30分くらいしてアン。それから1時間くらいしてジブルがやっと到着した。
「はぁはぁ、知的遊戯な事あろかい!完全脳筋仕様だろこれ、普通数時間も走れんわ……」
あ、疲れてジブルの人格が裏返っている。まあ、確かにその通りだな。
「よし、分かった。じゃあ次はハンデをつけてやろう。俺は30分後にスタートする。じゃスタートに向けて競争だ」
「待って、ザップ。もういいわ。十分堪能したわ。ジブル、乗せてって」
マイはジブルの手を握る。
「では、お先っ『風よ!』」
ジブルはマイと一緒に浮き上がり、スタートの方に向かって飛んでった。
「それではご主人様勝負ですね」
「ああ、ノールールだ!」
僕は迷宮の壁を登り壁から壁を跳び移りながら走り、アンは壁をぶっ壊しながら直進した。
迷路から外に出て、主目的を達成してない事を思いだしたけど、そのまま帰ってご飯食べて風呂に入って寝た。
巨大迷路、1回で十分だな。アトラクションが廃れた理由が解った気がした。
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