デウス・エクス・マキナ
「いーい湯だな、はははん!」
僕は夜中1人で自宅の露天風呂を愉しんでいる。
今日も1日頑張った。
女の子達は長い入浴のあと各々の部屋に戻って行ったので、今日は闖入者はいないはずだ。フラグじゃない事を祈りつつ、湯船に浸かる。
外した天井から星が見える。優雅だ。
温泉から溢れたお湯の音だけに包まれる。水の音を聞くと何故だか癒される。
よきかな、よきかな。
ドゴン!!
轟音と共に壁に穴が開く。
な、なんだ?
「アイシテル」
無機質な男とも女とも言えない声が風に流れてくる。
黒い巨人。
星明かりに照らされて、3メートルくらいはある黒い巨人が崩れた壁から僕の方を見ている。
僕は咄嗟に浴槽から出る。
ギシッギシッ
重い金属が擦れ合うような音がして巨人は動き始める。その頭部と思われる所に赤い光が灯る。光が強くなったと思った瞬間に一条の光の筋がそこから放たれる。危険を感じ僕はそれをかわす。
ジュッ
水に松明を入れたような音がして、風呂場の床に大きな穴が空く。
危ねーな、なんなんだこいつは?
奴はゆっくり近づいてくる。まるで全身鎧を纏った騎士のような外観に巨大な剣と盾をもっている。兜を被ったような頭部の中央には隙間があり、そこにはまるで目のように赤い光がともっている。巨人が鎧を着ているのだろうか?けど、目から光線を放つ巨人なんて聞いた事がない。
僕は警戒しながら相手を観察する。全身鎧の巨人のようなものと対峙する全裸な僕。なんか悪夢のような構図だな。騒ぎを聞きつけて誰か来たら、あまりよろしくない。けど、目を離したら何されるかわからない。
先手必勝!
僕は腰を落として巨人に向かって駆け出す。当然、奴の目には十分注意する。巨人の振り上げた剣を収納にしまおうとするが出来ない。
魔法生物?
降ろした剣を横に跳んでかわす。なにかがぶるんぶるん揺れている。懐かしい感触だ。左手に収納から発生させたミノタウロス王のハンマーを振るうが巨人は体を引いて盾で受ける。
早い!
けど甘い!
力で巨人を押し切る。巨人はたたらを踏み後ずさる。それでも巨人の構えは崩れない。
また巨人の目が光る。
「ザップー!」
マイの声が後ろからする。巨人の目から光線が放たれる。いかん、これは後ろに漏らせない。目の前まで迫った光線を収納にしまって消失させる。
「ほらよ、お返しだ」
光線が止まった瞬間、寸分違わず収納から光線を出して巨人の目にお返ししてやる。
ジュッ
火を押し消したような音がするが、巨人の頭は無事のようだ。けど、目の光りが消えている。すかさずハンマーを上段に構えて全力で振り下ろす。
ドコッ!
巨人は盾で防ぐが盾ごと押し潰してやった。盾がひしゃげ、うでがひしゃげ、頭がひしゃげる。
「アイシテル……」
一言漏らすと、巨人はゆっくりと後ろに倒れていった。
「ザップ、大丈夫?」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
マイとアンが駆け寄って来る。けど、なんだったのだろう?しかも、『アイシテル』って、何故僕が魔法生物に愛されないといけないのだろうか?
「ザップ、大丈夫か?」
巨人の壊した壁から人影が現れる。女の子だ。僕は取り敢えず湯船に非難する。
声の方を見ると、金色のビキニアーマーの人物、北の魔王リナだ。彼女はそのまま躊躇いも無く浴槽に入ってくる。
「おい、ここはスパじゃないぞ」
「わかってるのだ。ザップすまない。騒がせて」
「そうか、お前が原因か……」
リナの話を聞くと、最近発掘された『デウス・エクス・マキナ』という名の魔道兵器で僕を脅かそうとしたら、暴走したらしい。勘弁して欲しい。
「なんで、俺を脅かそうとするんだ?」
「え、ザップ以外だったら、死んでしまうかもしれないだろ」
相変わらず会話が噛み合わない。脅かすって言ってるが、襲撃するつもりだったんだな。
「で、なんであいつは『アイシテル』って言ってたんだ?」
「ん、言わなかったか?コイツの名前は『アイシテル1号君』だぞ?」
正直、リナのネーミングセンスはぶっ飛んでいすぎる。さすがにいつもビキニアーマーなだけある。けど勘弁して欲しい。なんか僕が求婚されてるみたいだ。ただでさえハーレム疑惑があるのに、これ以上辺りに変な噂を広めたくないものだ。
「おまたせーっ!」
見ると、マイとアンも水着に着替えて浴槽に入ってくる。なんなんだ?全く待ってないぞ。
そして僕達は、魔道兵器を傍らに温泉に浸かった。正直疲れた。1人にして欲しい。