『しんね』を食べよう!
「これ、珍しいから食べてみて」
僕たちのテーブルにマリアさんが謎の物体がのった皿を持ってきた。
それは、焼いた白いもので、棒状のもの、縮れて貝殻みたいになったものだった。
今日はこの町の仮設冒険者ギルドで仕事を受けて、そこそこの稼ぎを手にして、夕食はここ『みみずくの横ばい亭』でいただいている。
メンバーは僕、マイ、アン、それに導師ジブルだ。
夕食は終わり、今日は頑張ったという事で、みんなでエールをいただく事にした。もっともいつも通り僕に許されているのは1杯だけなので、大切にチビチビ飲んでいる。けど、温くなったら美味しくなくなるので悩ましいところだ。
「マリアさん、それ何ですか?」
お、マイも知らないものなのか。ということはかなり珍しいものなのか?
「私も初めて見るものですね。うん、少し豚の匂いがしますね」
アンが皿に顔を近づける。ん、豚の匂いい?確かに香ばしい匂いはするが、お肉っぽい匂いってだけで僕には何のものが解らない。さすがアンだな。微かな匂いでも材料が判るのか。
「皆さん待って下さい。私が正体を当てます。軟骨。これは軟骨ですね」
ジブルはジョッキを空けるとマリアさんを見る。自信ありげだな。
「ジブルちゃんエールおかわりね。残念だけど軟骨じゃないわ。とりあえずみんな食べてみて」
「「「「いただきます」」」」
僕はその白い物体を口にする。コリコリ。コリコリだ。確かに軟骨みたいではあるがそれよりは柔らかい。イカみたいだけどイカの臭みは無く肉の旨味がする。
塩味が程よく、食感もよく、僕はこれが好きだ。うん、美味しい。ご飯のおかずにはならなさそうだけど、エールのつまみに最高だ。他のみんなも気に入ったみたいで次々と口に入れている。そしてエールのおかわりを頼んでいる。ついつい僕も次々と食べて、エールを飲み干してしまった。僕はついつい空になったジョッキを見つめる。
「ザップ、今日だけよ。シャリー来てー」
マイがシャリーを呼ぶ。今日店内で働いているのは元大神官のシャリーと、忍者2号だ。
マイは呼んだシャリーにチップを渡す。
「例のやつよろしく」
「はーい。毒治療」
みるみる僕の少しもやがかかったような頭がクリアになる。おお、これでエールもう1杯飲んでもバーサークしないはずだ。
「はい、ザップさんどうぞ」
僕はマリアさんからジョッキを受け取る。
「正解は、これは『コリコリ』よ」
マリアさんが微笑む。『コリコリ』ってそのままじゃないか。
「『心根』とも言うわ。豚の大動脈よ。心臓についてる管のようなものよ」
豚の心臓についてる管?なんかおどろおどろしいけど、僕達が食べているのは決してグロテスクでは無かった。内臓にしては臭みもないしとっても食べやすかった。
「マリアさん、後で現物見せて下さい」
マイのレパートリーにこれが入るみたいだ。
「マイ姉様、私これ気に入りました。ここでも頼みますけど、うちでも作って下さい」
アンがキラキラした目でマイを見ている。
「アンさん、これってあんまり取れないのよ、その6切れで豚一匹分なのよ、その皿で豚5匹なのよ、あるときの限定メニューになるわ」
「これだけで豚5匹分?」
僕はテーブルの上のコリコリに手を伸ばす。希少なものなのか。それなら早いもの勝ちだ。2・3個掴んだで口に入れる。
「ああーっ、ご主人様……」
アンは悲しそうな顔をして最後の一個を口に入れる。
「2人とも大人しくして、マリアさん、まだあるんでしょ」
「さすがね、マイさん、次はお金いただくわよ」
さすがなのはマリアさんだ。サービスで『コリコリ』を出した事で、僕らはエールを結構追加した。商売上手だけど、見てて嫌な気はしない。
僕らはコリコリをつまみに、しばらく楽しい一時を過ごした。機嫌がよかったマイはもう一度だけ、シャリーの毒治療を施してくれて、僕は更にもう1杯エールを愉しんだ。
今日ザップ達が食べていた『心根』はお肉の専門店とか焼き肉屋さんにあったりします。だいたい牛か豚なのですが、牛は結構切り込み入れないと固いです。豚は一口サイズに切るだけで食べられます。けど、固いのが苦手な方は隠し包丁いれたが無難です。牛は金額的に結構しますが、豚はリーズナブルです。見かけたらぜひ一度はトライしてみて下さい。
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