荷物持ちと担々麺
ズズズズズーッ!
僕は小高い丘の上で麺をすする。ここは少し肌寒いので丁度いい。スープを飲むと若干汗ばむ。それはスープの温度だけでは無く、そのスパイシーな辛さによってもたらされたものだ。
「ごちそうさまですっ!」
やはり最初に食べあげたのは、ドラゴンの化身であるアンだ。
その隣ではマイがちまちまと麺を食べている。自分のペースでいい。今日は時間はあるからゆっくりすればいい。
そう言えばアンは今日はしっかり味を楽しんでたみたいだな。目を離すとこいつは汁があるものは全て具材ごと飲み干す。他の食べ物ならそれでもいいが、担々麺だけは駄目だ。担々麺に失礼すぎる。
「今日は飲まなかったみたいだな。成長したな。まだ食え」
褒美にもう一杯担々麺を収納から出してアンの空の器と交換する。
「そう言えばかつて何処かで人間ポンプという芸を見た事がある。小魚を口から呑み込んでまた口から出すというものだ。アンお前も修行したら出来るのではないか?」
「はい、出来ると思いますよ、今度ドラゴンスタイルで豚でも食べたり出したりしましょうか?」
ドラゴン形態で口から豚さんとかを呑み込んで出したりする。ううん、芸としては駄目っぽいななんかグロい。それにあいつ食べたり出したりって言ってたよな。それってただリバースしてるだけじゃないか?それに口に入れた食べ物をこいつがまた出す訳が無い。
「ザップ、アンちゃんとなんか大道芸するの?」
マイが食べるのを中断する。
「そう言う訳ではないが、そろそろ冬になったらアンはまた炬燵の主になるだろ。何かアンの仕事は無いかなって思ってね」
「そうですね、冬は私にとって地獄です。体が動かなくなるんですよね。けど、今年はジブルもいるので、なんか考えて貰いますよ」
「まぁ、どっちにしても冬が来るまでにしっかり稼がないとな。冬は仕事が減るからな」
「そうね、お金に余裕がない訳じゃないけど、何があるかわからないからいっぱい稼ぐに越した事ないわね。冬になるとお洋服沢山必要になるし」
おおっと!買い物の話だけは膨らませないようにしないと。正直マイ達の洋服の買い物に付き合わされるのは勘弁して欲しい。軽く脳死してしまう。
「今日はゆっくりして明日からは、報酬の高いギルドの依頼を受ける事にするか」
ズルズルッ!
僕は再び担々麺を口にする。いかん少し伸びた。
小高い丘の上、少し色づき始めた木々を見ながら岩に腰掛け担々麺を食べる。夏の内は汗をかきすぎるからあんまり食べてなかったが、今は季節的にいい感じだ。空は高い薄い雲が流れている。
王都へ向かう街道の途中でのちょっとした贅沢だった。