絶望のスパゲッティ
「無い、何もないわ……」
キッチンの方からマイの呟きが聞こえた。どうしたんだ?
「昨日すぐに使えるもの全部使っちゃったからすぐに食べられるものが何も無いの」
そうか、それは悪かった。昨日無計画にアンジュ達少女冒険者4人と、デュパン達『地獄の愚者』のパーティー4人、合わせて8人の分の料理をマイに作って貰ったからすっからかんなのか。じゃ、少しお腹減ってるけど昼まで待って隣の店で食べるか。
「ああ、絶望的ね。絶望、絶望のスパゲッティ!」
マイはそう言うと、パスタとニンニクと鷹の爪を収納から出してお湯を茹で始めた。
「ちょっとあっさりだけど待っててね」
「あ、ありがとう」
僕はテーブルに座って待ってると、寝ぼすけドラゴンも起きて来た。
「いい匂いですね」
「おいおい、起きてきたらまずおはようだろ」
「おはようございます、いい匂いですね」
「おはよう。そうだな」
さすがアンだ全てに食欲が勝っている。
辺りに香ばしいニンニクの香りが立ちこめる。
程なくして僕たちの前に具が何も無いパスタが現れた。
「絶望のスパゲッティよ、具材がなくて絶望の中作られたっていう遠い国の料理らしいわ。さぁどうぞ」
「「いただきます」」
僕はフォークでパスタを口に運ぶ。
う、美味い!
しっかりとした味でニンニクと鷹の爪だけでは出せないはずのコクのある旨味がある。
「うわっ、めっちゃ美味いな、何なんだこの味は?」
「乳化したソースの味らしいわ、水と油が混じったらこういうトロッとした濃厚な味になるの。例えば牛乳って水と油とたんぱく質ってものだけらしいけどなんていうか甘みや旨味があるでしょ、それと一緒のようなものってジブルが言ってたわ。詳しい事はジブルに聞いて」
「まぁ、私的にはやっぱり具材が無いのは少し絶望を感じてしまうですけど、これって本当に美味しいですね。朝にぴったりです」
やはり、アン的には少し物足りないみたいだな。
けど、僕にとっては決して絶望のスパゲッティでは無いな。強いて言えばマイが作ったら希望のスパゲッティだな。けど、あんまり無計画な事はしないでマイに絶望を感じさせないようにしないとな。
僕たちは速攻で絶望を平らげた。けど、残ったのは満足感と今日頑張ろうっていう希望だ。