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 導師のペット


「ジブル、その汚い生き物捨てて来なさい!」


 マイの瞋恚に燃えた瞳がジブルを捉える。


「ええーっ、待って下さいマイさん。この子が何をしたって言うんです?」


 ジブルが悲しそうな顔でマイを見る。けど、それに答えたのはマイでは無い。


「そいつは臭ーんだよ!飯が不味くなるだろうが!」


 滅多に見られない古竜様の激おこだ。


 アンは立ち上がると、ジブルが大事そうに抱えている足の生えた蛇の首をむんずと掴むと窓を開けて力いっぱい投げ捨てた。


「ああーっ。シャルロッテーっ!」


 ジブルは窓から飛びだし消えていった。


 あのクソ蛇の名前がシャルロッテ?改名してやらないとな。


 これで落ち着いて飯を食える。けどまだ悪臭の残滓があるので不愉快だ。


 そして事件の発端は昼食の始まりまで遡る。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「「「いただきます」」」


 ここにいるのは僕、マイ、アン、今日は仕事休みの導師ジブルの4人だ。ジブルがいるとなんと言うか、幼女、少女、それにマイがいるので娘2人いる家族の食卓みたいだ。こういうのもいいもんだな。


「今日もマイの飯旨いな」


「ご主人様、今日はさりげなくていい感じですね、『マイ』の飯う『マイ』。あと少しでスルーしてしまう所だったですよ」


 あ、駄洒落になってる、気付かなかった。アンは長年生きてるだけあって、優秀な駄洒落センサーを持っている。


「アンちゃんって、しょうもないとこ鋭いのに大事なとこ鈍感なのよね」


 マイがジト目でアンを見てる。


「マイ姉様、『大事なとこ鈍感』って私の大事なとこのどこが鈍感なんですかねー?」


 うわ、アンの奴、言葉尻を拾って下ネタ系に走ろうとしてやがる。マイの目が光る。学習しろ下品は駄目だ!下品は!


「そうだよ、そんな所だ。そう言うのはすぐ気付くのに、お前冒険では魔物や罠とか全く気付かないだろ。あと接客とかしても気が利かないし、まあドラゴンだから鈍感なのかもしれんがな」


「何言ってるんですか?鈍感なのはご主人様がキングでしょ、この前だってマイ姉様が……」


「アンちゃん、ザップ、ごはん冷えるわよ」


 マイの一声で僕たちは大人しく食事を再開する。アンが言いかけた事は気になるが、ここは食事を楽しむべきだろう。


 “臭っ!”


 言葉をすんでの所で呑み込む。臭いという言葉は食事中にはそぐわしくない。微かに卵や肉の腐ったような臭い。例えれば『アレ』だ。言うに憚られる。

 けど、どうして食事中にこんな臭いが?誰だ?誰が放ちやがった?しかも飯を食いながら……


 僕はしばらく考える。まず、マイでは無いだろう。マイがそんな事するはずが無い。そう信じたい。

 では、アンか?いやそれは天地がひっくり返っても無い。奴は最近はこと食事に関しては一切の妥協を許さない。少しでも味を邪魔する行為を許さない。少し前に王都で有名なレストランで食事中していた時に香水がきついマダムを店から追い出していた。こいつはあり得ない。

 ジブルなのか?いや粛々と食事する彼女からは微塵もその気配は無い。奴は小心者だからそんな大それた行為をして平静で居られるはずが無い。

 もしかしたら、誰か体調が悪くて少し粗相をしてしまったのかもしれない。広い心をもってここは無かった事にしよう。


 僕はスプーンを手にマイの優しい味のスープを口に含む。


 “プーン”


 臭っ!間違いなく誰かが放ちやがった。最悪だ。スープの味がまるで腐ったものを間違って食べてしまったような味に変わる。強烈だ。激しい悪臭は味がしたかのように錯覚するものなのか!


 ここに至って僕らは顔を見合わせる。ジブルだけは黙々と食事している。


 しばらく沈黙が支配する。我が家では食事中に下品な事や下ネタは一切禁止だ。まあ、当たり前の事なのだが。かつてはこの駄ドラゴンが何度も血祭りに上げられたものだ。ちなみにたまに僕も。


「……ザップ……なの?……」


 マイの完全に光を失った目が僕を捉える。何故マイがボクを最初に疑ったかと言うと前科があるからだ。あれはまだ迷宮生活をしてた時の事だ。けど、あの当時はしょうがない。マイと出会うまでは最低の食生活でお腹の調子が悪いのが当たり前だったから。


「マイ、俺を信じろ」


 僕はマイの目をじっと見つめる。


「信じたいわ。けど、ザップ以外はみんな女の子よ?」


「そうですよ、ご主人様、今ならまだ穏便に済ませてあげますよ」


 うげ、アンまで僕を<●><●>な目で見ている。やべガチで激おこだ……


「ん、皆さんどうかしたんですか?」


 ジブルがきょとんとしてる。こいつは嗅覚無いのか?


 という事は発生源は誰なのか?4人のうち誰も違うっぽい。という事はもしかして本当に僕なのか?無意識のうちに垂れ流してしまったのか?そんな事あるはずがない。じじいじゃあるまいし。


「くぽっ」


 妙な音がして僕たちはその音の発生源を見る。ジブルが膝に抱えた蛇みたいな生き物が口を開けている。


「あら、シャルロッテちゃん、しゃっくりですかぁ」


 ジブルが蛇をとんとんする。次第に僕の鼻に強烈な臭いが飛び込んでくる。こいつか!こいつが口から何か吐き出しやがった。そうかジブルはこの悪臭は攻撃に耐性をもってるのか。


「ジブル、それ、間違いなく放ったわよね、悪臭……」


 マイが聞いた事の無いような低い声を出す。


「疑っテすみマせんデシた、ご主人様。あいつが元凶デスネ」


 若干、アンの発音がおかしい。威圧効果も漏れ出していて、聞こえて来てた虫の声とかが止み静寂が支配する。天変地異の前触れみたいだな。


 そしてそのあとクソ蛇は外にぶん投げられる事になる。


 そのあとクソ蛇を拾って戻って来たジブルの必死の懇願で、クソ蛇は外で飼う事になった。


 

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